1500円の夜景を見下ろして

長月瓦礫

1500円の夜景を見下ろして

真上に満月が浮かび、寄り添うように木星が並んでいる。

星々がきらめき、夜を彩っている。


街から離れたとある建物の屋上、そこは私だけの秘密の場所だ。

そこから見下ろす街、遠く離れた月や星、私が日々神経をすり減らしながら惰性で生きている世界と同じとは到底思えないほど綺麗に映った。


私はゆっくりと息をついた。

ここに来てよかった。


私はここにいる時間が大好きだった。

どんなに冷たく汚い世界でも、ここから見れば美しく見えたから。


私の命のろうそくは残りわずかだ。

誰にも迷惑をかけずに過ごせる場所を探していた。


「今日も一日が終わりますねえ」


夕映はのんびりと言った。

私は車いすに乗っているため、自由に行動できない。

人間の介護士は丁寧で真心があり、機械の介護士は効率的で従順だ。


どちらを選ぶかは利用者の自由だが、利用率は人間のほうが多い。

私は人間が嫌いだから、ロボットを選んだ。


「あのロボット様は今日だけで500人も殺したそうですぅ。

マジやべぇですよね、ご主人様もどうかお気をつけてくださいまし」


レンタル料は一時間1500円、こんな口調だからタクシーを呼ぶような感覚で使用できる。どこの層を狙っているのかは分からないが、私は嫌いじゃない。


レトロを勘違いしているような、このちぐはぐさが可愛らしいと思う。


「そうはいっても、世界の総人口の何百分の一程度だろう」


「違いますよ、ご主人様。ロボット様だけで500人も死んでるんです。

それ以外の死因を含めたら、倍以上は増えますよ」


夕映はぴしゃりと言い切った。

急激な環境変化についていけず、自殺する人が後を絶たない。

毎日のように死亡者の人数が報道されるが、あまりにも人数が多すぎてピンとこない。この地域では何人、死んだのだろう。


この世界は全知全能の思考機械に支配されている。

環境問題の原因である人間を排除することで、世界の平和を保とうとしている。

最初は世界を治すために生れたロボットが逆らう奴も逆らわない奴も全員まとめて始末する災害となってしまった。


空から降る銃弾は肉体を貫き、ゴミ収集車が散らばった肉を定期的に掃除している。

この弾丸で世界は一変した。崩壊していく。

この建物も夜景もすぐに消えてなくなる。


「鉄の雨と俺の命、どちらが先に尽きるかな」


死の知らせが出回るのが本当に早い。

何もしなくても伝わってくるから、悲しむ暇もない。

概念上の死体は蹴られまくり、勝手に炎上する。それの繰り返しだ。


「どう考えてもご主人様の命が先でしょうねぇ。

あのロボット様は人類抹殺を掲げているみたいですしぃ」


夕映は軽々と言ってのけた。

不謹慎という言葉は彼の辞書にはないらしい。


「人類の手で魔王が生み出されたわけか」


「ということは、我々ロボットは魔物ってことですかねえ。

人類とは相容れないバケモノ、共存できませんか」


「親玉が敵意をむき出しにしているからな、無理に決まっているだろう」


全知全能のロボットの思惑なんて実際のところ、誰にも分からない。

死んだらどうなるかなんて分からないのと同じだ。

人生がつまらないと思ったから殺す。

未来が見えなくなったから殺す。


人間もロボットも大して変わらないのかもしれない。


「ま、私からしてみればただの傲慢ですけどねえ」


「傲慢?」


「すべてを知った気になってるんじゃないよってことです。

たかが数十年しか生きていないような奴に人間を語られたくありません」


「それもそうか」


私たちは互いにうなずきあった。


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1500円の夜景を見下ろして 長月瓦礫 @debrisbottle00

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