嘘をつく鏡

編端みどり

冗談だよ

「この林檎、毒があるぜ」


「うそっ! じゃあやめておくわ! 誰よ! 毒なんて入れたの! まさか白雪を狙って……!」


目を吊り上げて怒る女王様は迫力満点だ。きっと、白雪姫の物語の女王様はこんな感じなのだろう。


けど、俺のご主人様は違う。


「嘘だよ」


「なっ……! なんで嘘がつけるのよっ!」


「すぐ訂正すりゃ、冗談くらい言えるようになったぜ」


俺は鏡。

目の前のご主人様に造られた、魔法の鏡だ。


「そうなのね。やるじゃない」


やっぱ俺のご主人様は変わってんなぁ。

魔女が魔法の鏡を作るのは、便利だから。


冗談だと誤魔化しても嘘を吐く鏡なんて速攻で壊されんのがオチだ。


それなのに、この人はニコニコ笑って林檎の皮を剥いている。冗談なら大丈夫ね。でも味見はしておかないとなんて笑いながら、疑いなく林檎を口にする。


暴走しかけてから、俺はご主人様に嘘が吐けるようになった。嘘を吐くとヒビが入るのが魔法の鏡なのに、俺は嘘を吐いても綺麗なままだ。


なぜなら、目の前でニコニコ笑っているご主人様が俺を一切疑わないからだ。


魔女の信頼を得られれば、鏡は進化する。暴走しかかった俺を壊そうとせず、守ろうとしてくれる魔女なんてこの人以外知らない。


何でも知ってる魔法の鏡なのに、人の心は分からない。


もっと進化すりゃ、分かるようになるのかな。


分かるようになったら真っ先にご主人様の……いや、やめておこう。


心を読むまでもない。こんなに分かりやすい人なんだから。


さぁ、冗談ということにして次はどんな嘘を吐いてやろうかな。

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