アイデンティティ・フォレンジック
月澤 慧
第1章 始まりと終わり
第1話 終電
8月。僕は、大学の夏休みを利用して、地元に帰省していた。
といっても、そこまで大学と実家の距離はそう離れている訳ではないが、毎日2時間45分が短縮され、さらには交通費までもが浮くのなら、大学の近くに移り住む方が効率的だろうと思い、大学入学と同時に家を出た。
同様に市外や道外を出た友人も多かったが、女々しくも友人が懐かしくなるものだ。6月の時点で、今日の4人の同窓会は確定していた。
僕らが住んでいた地域は、いわゆる栄えている市街地・札幌から少し離れている。もちろん地元のチェーン店の居酒屋で飲み会をしたって構わないが、どうせなら、華々しい場所で浮かれた気持ちになりたいものだろう。
正直、僕は札幌の大学に通っているので新鮮味はないが…。
いつもは遅刻魔の友人でさえ、予約した居酒屋に早く到着していた。
僕たちは、高校生の時にはできなかった生ビールで乾杯をした。
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その後の記憶は曖昧だが、18時に集まり、20時頃には居酒屋を出て、まだ帰るには早いと誰もが思っていたため、近くのカラオケ屋に入った。
女子が居るわけでもないのに部屋を暗くして、流行りのJ-POPから、失恋ソングから、懐かしのアニメソングやらを歌っていたら、22時30分頃だった気がする。
「俺、終電あるから帰るわー。」
「はぁ?今日は朝までだろ!」
完全に出来上がった友人たちがすすきのの交差点で大声で、帰らせまいと交渉している。
「僕も、終電帰りで。多分これ以上飲んだら吐く。」
正直、楽しすぎて疲れた僕は情けないが本音を漏らした。
「さすがに貰いゲロしたくはねぇな! まぁ、また夏休み中会えるべ。」
と一人が同情してくれたため、終電組は解放されることとなった。
ふらふらと歩きながら札幌駅へ向かう。LINEの通知を見ると、ニュークラで盛り上がるオール組からの写真が届いていた。さすが大学生だな、と思わず笑いがこみ上げる。
「まもなく、苫小牧行、最終列車が到着いたします。」
低く落ち着いたアナウンスで、俺は顔を上げた。遠くからオレンジ色のライトが近づいてくるのが見える。
終電ということもあって、乗客は少し多かったが、無事に席に座ることができた。目的の駅までは約1時間。終電で降り過ごす訳にはいかないので、イヤホンを耳にはめ、最近流行りのYoutuberの動画を見て過ごしていた。
アイデンティティ・フォレンジック 月澤 慧 @tsukizawa_kei
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