第83話 天空の巣竜

「ジンさん、聞きたい事があるんだけど。旅行の行き先ってどこなの?」

「…魅惑の島って呼ばれてる。まあ、俺にとっては呪いの島だけどな」

「呪いの島?」

「無理やりに囚われてんだよ。そして、それが自分の意思だと認識させてるからタチが悪い」


ジンは知り合いの超越を思い出しつつ目を細めていれば、空飛ぶ道具が大きく揺れ動く。暴風の自然発生というのはないだろう。それにしては魔力が大きく含まれている。


性質的に思い出していた者の眷属であると察し、ついため息が出る。最近になってブーファスのイザコザが終わったというのに、新たな超越と矛を構える事になる……その事実に。


「ユーフォスの野郎…これを見越して転移で先に向かったのか。コッチにも言えってんだ」


小さく罵倒を溢しながら、ジンは転移を開始する。空飛ぶ道具を落とそうとしている竜の前に。





『ハロー』


ジンは竜語で喋る。人語では理解できない可能性があると思っての行動だったが、結果として竜を驚かせるものになった。


『お前、フリッツの眷属だろ』

『なっ、何故それを!?』

『超越相手に隠し通せると思ってんのか?だとしたらお笑い必須だな』


心底驚いている表情。それに呆きれしか抱く事はできない。超越が身近にいたというのに、その規模や異常さを把握できていない。


正しくバカと言ったところだろうか。


『俺はな、お前を簡単に滅ぼせる。超越と眷属、その差は圧倒的だ。だが、俺は鬼じゃない。交渉をしようか。ココから手を引くのなら、俺はお前に手を出さない。権能を使った契約でも良いぜ』

『断る』


あまりの予想通り過ぎる言葉に、ジンは自然と笑みを漏らしていた。ココまでの格差が見えていても引かないのは忠誠心が高いのか、勝てる可能性が見えていると誤認をしているからか。


どちらにしても、現実の見えていないアホには変わりない。


竜は撃退をするために火焔を吐くが、ジンにとってソレは生ぬるい。温度も速度も威力も。ジンを相手にするにはあまりにも未熟。


元超越最強とただの眷属。その格の差はあまりにも深い。身体能力や魔法能力の話だけではない。存在の話である。


ソレは…眼力だけで火焔を吹き飛ばせることができる程に。


『これが竜王帝ってやつだ。納得をしたか?その偉大さと異常さに。超越を相手にするというにはこういう事だ。…まあ、何も知らないお前が相手だ。慈悲をやろう。もう一度交渉を…』


喋りの途中で、火炎がジンに直撃をした。火花が散る。熱いとも思わない火炎だが、従わないという意思が垣間見える。


知っていたと言えば知っていた。情報を引き出せないかと思っての行動だが、差が見えないバカが優位に働いたようだ。


『あぁ、そうか。残念だよ』


情報を吐いてくれないのであれば、見逃す必要はない。実害が出ているのだから。


ジンは拳に邪力をまとい、強化をする。その禍々しい紫色の力に竜は得体の知れない恐怖を抱くが…ソレは遅い。あまりにも遅すぎた。


ジンが己とは次元が違う強さを持っている。その事実に気づくのは、自身が矛が向いてからだ。


『ま、』


竜は自身の命を奪おうとする死の矛を収めようとするが、ジンは完全に敵対姿勢をとっていた。


言葉を紡いでも、ジンは空中を走っていた。ソレに竜が気づくことなどない。気づくのは自身の頬を強化された拳で叩かれた時。


あまりの強烈すぎる一撃に加えて、強化として施した邪気が体内を侵食している。自身の判断関係なく、体は硬直をしていた。


その美味すぎる状況。ジンは見逃さない。先程よりも邪気で強化を施した拳を構え、硬直をしている竜の腹目掛けてストレートパンチを繰り出す。


ようやく一つ目の邪気に適応し始めているところであった。そして、二つ目で対応が追いつかなくなった。


膨大すぎる邪力を前に、体は硬直するだけでは留まらない。体内から内部破壊を繰り返し、力を発生、使用する能力が大ダメージを受ける。


その影響は大きい。先程までならば思考が追いついていた速度すらも…今の体中がデバフ状態の竜は見逃してしまう。


『オラオラオラオラオラ!かっ飛ばせって…なァ!』


ジンは神速に移動し、竜の背後を取ってから尻尾を回す。段々と回す速度を増加したのち、海へと叩きつける。


その過程でいくつもの悲鳴が聞こえてきたが、ジンにとっては気にする余地もない些細な悲鳴である。


『んじゃあ、派手にぶっ飛ばすぞ』


『灰廻曲解』


「はぁ…俺と未亜とエキドナがいる…その事実から余裕目に見ていたけど、そんな事ないかもな。まぁ、ユーフォスが俺に頼るぐらいだ。そんぐらいの難易度ってところか。はーやだやだ。こんな短期間で厄介すぎる超越と戦いたくねぇ」






「お疲れ様、ジン」

「流石の手際だったね。お疲れ様」

「お、おう。ありがとう…」


ジンが控えめに返事をするのは、未亜とエキドナ二人の顔にある。言葉ではお疲れ様と労っているものの、表情からは不満が現れている。


退治しに行くのだったら、私たちも連れてって欲しかった_そんな気持ちが見え見えである。


「分かった、分かったから。次回は絶対に頼るから」

「「絶対だよ!!」」

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