番外章 花嫁と新郎と魅惑の島

第82話 単なる旅行

「うーん。いつメン」


学校が今日から冬休みとなった事で仲を深める為に旅行へ行く三人であったが、それは他の者達へといつの間にか漏れていたようである。


「ごめんね、仁。君たちの旅行なのに俺たちが世話になってしまった」

「うん?気にする事じゃないだろ。俺や未亜、恵那が許可出したんだからな。騒がしいのは嫌いではないし、皆がいるからってイチャつけない訳でもない」

「そうなんだ……うん、そうなんだ。乗っからせてもらう立場で言うのはなんだけど、イチャイチャは程々にしてくれよ?こっちが胸焼けをしてしまう」


零の言葉にジンは弁解の言葉を吐くが、零には全く信じてもらえない。


どうしてだろうか……なんて思う暇もなく、普段の行動が原因だと察せれていた。普段の自分を恨ましく思うは初めてである。






「よっす」

「あれ、仁じゃん。恵那さんと花唄さんとは話さないの?」

「二人は女性陣で話してんだよ。だから俺もココに来た」

「行かないの?」

「女性に囲まれんの気まずいんだよ。あんまり仲深くない人もいるし」


ジンはそう言いながら千里の隣に座りつつ、魔法陣の組み立てをする。とは言っても、魔法の研究や開発ではなく、暇つぶしの魔法に入ってくるが。


「仁…君は俺たちと話すことはしないのかい?」

「何か話す話題ある?」


最近起こった事は大抵共通の話題であるため、話す内容が全くと言って良いほどにない。


ジンの周りであった内容がブーファスの事件とエキドナと未亜とジンでの恋愛事件しかない。これは交友関係を持っていれば誰でも知っている周知のモノである。


そして、ジンにそれ以外の話のワードは天気のカードしかない。つまり、面白い内容が全くないのである。


「空飛ぶ道具に乗るのは初めてなんだろう?感想とかは」

「ふっ…聞きたいか?俺は無粋だからな。気の利いた返しはできないぞ」

「別にそれは知っているから何とも。友達としての付き合いはそこまでだが、そういう人間性なのは俺たちだって認知してる」


良いのかと聞いたら毒を吐かれたジンは少々落ち込みつつも、乗った感想を告げる。


空は飛んでいるが、遅い。貯蔵されている魔力も全然。装甲だって弱い。ハッキリ言ってジン自身が飛んだ方が百倍マシである。


その言葉に三人は心底引いたような視線を見せていた。いや、ような、ではない。本当に心底引いていたのだ。


「ロマンチストのカケラもないじゃん。憧れるヤツだっているんだぜ?」

「おうじゃあ未亜と恵那に聞いてみろ。あの二人だってさっさと着ける方が良いとか言うぞ」

「「「ホントウカナァー」」」







「未亜!恵那ちゃん!この船に乗った感想はどう!」

「「うーん、別に」」

「え?」

「私は皆と話したいから乗ってるだけだし」

「私もかな。誰かと居なきゃ乗らないよ」


花音はその言葉に驚愕を抱え、陽菜は納得の表情を、優香は苦笑を浮かべる。


流石主人と人格の関係性と言ったところだろうか。ピースとピースのように合致をしていた。


「ジンと居たらどうなの?」

「別にいつもと変わらないよ?イチャついて、イチャついて、イチャつくだけ」

「あ、自覚あったんだ」


いつもイチャついている発言に優香はひっそりと意外そうに呟く。それに二人は納得がいかないように顔を顰めた。


未亜とエキドナはジンではない。他人の視線に気づかない鈍感のジンではないのだ。生暖かい視線を向けられても流されるニブ野郎のジンではないのだ。


他から見ればジンと同じように見えるかもしれないが、必死に隠しているだけである。


それはまあまあ辛いが、照れているのがバレて更に甘やかされるよりかはマシである。


「意外だ。未亜って公共の面前でも平気だと思ってた。恥ずかしいんだ」

「私を何だと思ってるの!?恥ずかしいって思うよ!……ただ、甘やかしてもらえる方が勝っているだけで」

「俺もそんな感じだぜ?」


女性陣全員の耳を通り過ぎるのは男性らしい特徴を持ったモノ。その中でもエキドナと未亜にとっては脳に染み付いてしまう程には聞き、好いている男のモノ。


ぎこちない動作で後ろを向けば、そこに居たのは初代竜王帝であり、二人の恋人であるジンが立っていた。表情から少し不満げな様子を感じ取れる。それに愛らしさが感じてしまい、二人の心臓は突如として跳ね出したが、今気にする所はそこではない。


一体いつから聞いていたのか。ジンへの愛を語りまくっていた場面を聞かれてしまったら……想像しただけで顔が真っ赤になる。


少々固まりながらその質問をすれば、ジンはさっと答える。


「マジでさっきだけど。ほら、羞恥がどうのこうのとか。それで俺、言いたい事があるんだけど。別に羞恥感じてないとかじゃないから。イチャつきたいを優先した結果そうなってるだけだから」


それはある意味無自覚よりもタチが悪いのではないか。二人はそう思案してしまった。


「というか!!なんで来たの。私たち、女子会に花を咲かせてたんだよ」

「そ、そうだよジン。ジンが離れるって言ってたから安心して話してたんだよ!」

「お菓子持ってきたんだけど……食べないの?」

「「食べる!!」」


ジンが持ってきた砂糖菓子を食べながら思い出す。頼んでいたことを。


「安心して、ねぇ……二人が勢いをつけて話すの俺の話題じゃないの?」

「「!?」」

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