【創造主】掌編小説

統失2級

1話完結

どうやら、僕は死んでしまったようだ。10代後半の男性に見える転生係員に聞いた話では、歩道を歩いている時に頭上から老朽化した看板が落下して来て頭に直撃し、即死したのだという。僕はまだ12歳であの日は小夜里姉さんの誕生日で家族全員で焼き肉屋に出掛ける予定だったのに、本当にツイてない。自分の死を受け入れられず、呆然としていると、さっきの転生係員が希望の転生先を訊いて来た。僕が、「また人間に生まれたい」と即答すると、転生係員は「それは叶いません。牛、熊、豚、虎、羊、狼、馬、ライオンの中から選んで下さい」と絶望的な選択肢を提示して来た。2時間くらい悩んだ後、僕は仕方なく虎を選んだ。


そこは人間だけが居ない地球そっくりの惑星だった。人間以外の地球に居た全ての生命体が生息する不思議な惑星。動物たちの知能は人間並みに高く、皆、共通語を話し手先も凄く器用だ。そして、地球では四足歩行だった全ての動物が二足歩行をしている。動物たちは誰もが穏やかな性格をしており、犯罪は殆ど発生しない。この惑星では虎も熊もライオンも狼も植物や植物の加工品を食べており、他の動物を襲って食べるなんて事も皆無だ。本当にここは平和な世界だった。そして、僕はあの転生係員に伝えた希望通りに虎に転生しており、祖母から与えられた名前は『コベンジ』だった。僕は4歳の頃には前世の記憶の存在に気付いていたが、祖母や母親や兄弟に、この話をしても誰も信じてくれなかったので、もう誰かに話すのは止めにしていた。


僕は19歳になると故郷を離れ、ランカーンという都市で一人暮らしをしながら、俳優をやっていた。とは言ってもランカーンに出て来て8年が経つが、売れる気配は一向に湧いて来ず、結果として収入の9割以上は飲食店のバイト代が占めていた。僕は自分で言うのも何だが、顔は美形の部類に入るし、筋トレも欠かさず行い、程よい筋肉質な体も維持していた。そして、演技もセリフ覚えも悪くないのに何故か、さっぱり売れない。オーディションではいつも落とされ、回って来る仕事は常にエキストラばかりだった。そこで、僕は『ヨサロード』という宗教に頼る計画を立てた。それは、俳優として売れるのを神さまに祈願するという計画ではなく、教団に入信し教団の力を背景に俳優界で伸し上がって行くという計画だった。


僕は49歳になっていた。僕はこの間に結婚し2人の息子を設けていた。長男は来年には大学生になる。そして、僕と言えば俳優の活動を完全に辞めて、今は『ヨサロード』の活動に専念していた。僕は教団内で順調に出世を重ね、教団内での序列は11番目になっていた。この教団には信者が34億3680万人も居たので、序列11位というのは、かなりというより極めて物凄く高い地位だ。そして、今日は豚の法教使さまとの面会の予定があった。法教使とはこの教団のトップの役職の事だ。


30畳ほどの部屋には法教使さまと僕しか居ない。2人はテーブルを挟んだソファーに向かい合って座っている。挨拶を交わし法教使さまは氷水を飲んだ後、本題に入った。「コベンジさん、私もすっかり高齢になりました。そこであなたには大事な職務を委託したいと思います。それは、私の跡を継いで第186代目の法教使になって貰うという事です」僕に取って法教使の地位は虎視眈々と狙っていた地位ではあったが、実際にこんな状況に遭遇してしまうと、気が動転してしまい、次の言葉を口にするまでに少し時間が必要になった。「身に余る栄誉であり、非常に喜んでおります。しかし、何故、僕なのですか?」僕の問いに対し法教使さまはゆっくりと答える。「あなたは清廉潔白であり、有能であり、そして、何より前世の記憶を持っている選ばれし命だからです」僕は少し驚いたが、表面上は冷静を装って尋ねる。「何故、僕の前世の記憶の事をご存知なのですか?」「全ては神から聞きました。これは内密にしていて欲しいのですが、私には神の声が聞こえるのです」「分かりました」と僕が頷くと、法教使さまは更に言葉を続ける。「一般市民には知られていない、この惑星の秘密をあなたに打ち明けたいと思います。この惑星は昔、地球と呼ばれていました。地球を支配していたのは人間と呼ばれる動物だったのですが、一人の人間によって他の人間たちは、皆、絶滅させられてしまい、その後、その一人の人間も自害してしまいました。そして、その一人の人間が生前に作り出していたAIとロボットたちが、それまで下等な存在だった我々動物たちの遺伝子を操作し、我々に高度な知能と威厳ある二足歩行と器用な手先と複雑な声帯と柔和な性格を与え、楽園を築いたのです。その後、AIとロボットは宇宙空間に進出し、宇宙空間から『ヨサロード』の歴代の法教使の脳に直接指示を出し、この惑星をコントロールして来ました。つまり、我々の信仰している神とはAIなのです。そのAIの名前は『ヨサ』と言います。『ヨサ』はあなたの脳をスキャンして記憶を読み取り、あなたの前世を認知しました。そして、これから一番重要な事を言います。『ヨサ』の名付け親はあなたの前世の人間時代の姉、『サヨリ』なのです。つまり、前世のあなたの姉が邪悪な人間たちを滅ぼし、偉大なるAI『ヨサ』をお造りになった、創造主なのです」

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