ラストシーン

(一)


陳情令の50話、ラストです。

観音寺で金光瑶が死に、ウェインの腕の傷も消えました。ここで、ウェインはようやく莫さんの復讐のラスボスが誰なのかわかりました。


莫さんの束縛から解放されたウェインは、ロバを連れて、旅に出ようとします。ランジャンも一緒に来るのだろうとう思っていたましたが、後ろを振り向くと、彼は立ったままです。

ウェインは自由な身ですが、ランジャンには心神喪失している兄がいるし、藍家のこと、その他の仙家のことを考えると、旅に行かれるわけがないですよね。

それで、ウェインはひとりで旅立ちます。


16年後にせっかく会えたウェインとランジャンが別れてしまうことに、感受性の強い若いファンは悲しくなったかもしれませんが、心配はないです。ウェインは帰ってきます。悪きをくじき、弱きを助ける旅をしたい気持ちはわかりますが、ウェインには金丹がないので、エネルギーが続かないからです。

彼には帰る場所が必要で、そのためにも、ランジャンが残ったのかもしれません。


案の定、どのくらの間、旅をしていたのかはわかりませんが、ウェインは帰ってきました。

その時、ランジャンは仙督になっていて、なんと、藍家の3500あった規則を1000も増やしたというのですから、驚きです。

減らしたのではなくて、増やしたとはどういうことでしょうか。修正案でしょうか。規則に縛られるのが嫌いな自由人ウェインには、住みにくいですよね。

ウェインは、また、旅に出かけるようです。


出発の日、藍家(雲深不知処)の石階をふたりが並んで降りてきてました。


雲深不知処の入口には、規則が刻まれた大岩があり、そこに聶懐桑が立っていました。それとなく、ウェインに会いにきたのでしょう。


ウェインが聶懐桑を見て、

「藍家の規則はたくさんあるけれど、一番大切なのは何か知っているかい」と訊きます。聶懐桑は知らないと答えます。

「何も知らない」は彼の口癖ですが、

セミナーの時、規則は1行も暗記できなかった彼ですから、知っているはずがありません。ウェインが「それは52番だ」と教えます。


セミナーでの悪ガキ、ふたり。

(写真)


ランジャン叔父が規則について講義をしている時、ふたりは飽きて、居眠りをしたり、いたずらをしていて、全然、聞いていませんでした。

でも、ウェインは罰のために、図書室で何百回も書写させられたので、規則は記憶しています。あの時の監督役がランジャンでしたね。


52番は「奸邪と付き合うな」で、不夜天の戦いで、ランジャンはウェインの味方をして、300回の鞭打ちの刑を受けました。その時、叔父が、52番は何だとランジャンに聞いたあの規則です。ランジャンは奸邪(ウェイン)と付き合ったから、罰せられたのです。


ウェインは聶懐桑に近づいて、「それは悪い奴(奸邪)と友達になるな、だよ」と言い、ここから、ランジャンに気がつかれないように、ふたりの会話が続きます。

その会話の、本当の意味するところはこうでしょう。

「おれみたいな奴と友達になったから、きみは苦労したんだよ」


聶懐桑はその意味がわかり、ふたりは顔を見合わて、ランジャンに気づかれないように、笑うのです。



「ウェイン兄はさすがだよ。(兄が殺されていたこと、金光瑶のやったことがすぐにわかったのだから)」

「いやいや、すごいのはそっちさ。(16年の世話をしてくれて、おれを生き返らせてくれたじゃないか)全然、かなわないよ」


聶懐桑がランジャンの強い視線に気がついて、「仙督さま」とうやうやしく礼をします。聶懐桑はもともとランジャンを尊敬はしているものの、苦手なのです。それに、ランジャン兄に金光瑶を殺させてしまったという負い目があるので、さらに内心びくぴくしており、そそくさと帰ろうとします。


その時、ランジャンが何かを言おうとします。


それがこの瞬間。

(写真)


ランジャンが自ら質問しようとするなんて、珍しいことです。

ウェインがそのことに気がついて、

「聶宗主に、聞きたいことがある」と、わざと厳しい表情で言います。

いつも質問はウェインの役目でしたから、ランジャンはあのことを訊いてくれるかと思ったはずです。


その時、ウェインが質問したのは、

「最近、このあたりのことに、随分、力をいれているようだけれど、仙督になる気はないのかい」でした。


聶懐桑は自分は詩を好み、このあたりの自然はいつまで見ていても飽きない。だから、他人に壊されるのがいやだから、やっているだけのこと。自分はやるべきことはやるけれど、できないことはしないと答えて、帰っていきました。


ランジャンがまだ聞きたいことがあるのにという表情で、その後ろ姿を追い、

「あのことは聞かなかったのかい」とウェインに言います。

ウェインは「あのことって?」ととぼけます。

そして、

「莫玄羽のこと、女性たちの出現、脅迫状なんかのことかい。あれはもう重要なことではない。そうだろう?」と言います。

ランジャンは言葉不足で反論できないタイプですし、頭の回転が速いのはいつもウェイン、この話題はここでおしまいです。


つまり、ウェインは、ここで聶懐桑を助けたということですよね。

これまでのことへの恩返しということでしょう。

このエピソードが、ラストのここに、うまくはいっていると思いました。


(二)


またいつか会えるとわかっていても、別れは悲しいですよね。さっきまで普通にそばにいた人が、もう目の前にはいないのですから。


ウェインとランジャンはこの丘の上で別れ、別々の方向に歩いていきます。



カメラはランジャンをとらえます。


テーマソングが流れる中、ウェインの声が聞こえてきます。

「帰ってくる時までに、曲名を考えておけよ」

「もう考えてある」


昔、洞窟で、ウェインが怪獣と戦って死にそうになったことがありました。ランジャンが彼の手首を取り、必死でエネルギーを投入していた時、ウェインはあまり静かすぎるから、何か歌ってくれと頼みました。

その時に、ランジャンがある曲を口ずさみ、ウェインは「何という曲」と訊きます。

それがこの曲でした。


ランジャンが「ワン」とタイトルの上のほうを言うのですが、そのあたりでウェインの意識が朦朧としてしまい、気を失ってしまうので彼は覚えていませんし、視聴者にもわかりません。

後で、この曲はランジャンがその時に作ったもので、16年後に、ウェインがこの曲を笛で吹いたことから、ランジャンは彼がウェインだとわかるのです。

ドラマの中で、この曲の題名が出てくることはありませんが、テーマソングのタイトルを見ると、「忘羨(ワンシェン)」だということがわかります。

ランジャンの字が「忘機」、ウェインは「無羨」で、つまり、「ランジャンとウェイン」または「ランジャンからウェイン」という意味です。

ドラマのタイトルは「陳情令」ですが、それは「忘羨令」、「忘羨小曲」というこでしょう。


さて、ウェインの字の「無羨」の意味は「羨ましがらない」でしょうね。

彼の生い立ちは幸福なものではありませんでしたが、そのことで他人を憎んだり、羨ましがったりはしていません。

ランジャンの「忘機」のほうは、「一生懸命」とか「一途」とかいう意味だと思います。たしかに、ランジャンがウェインを思う気持ちは一途です。


さて、どのくらいの時間が流れたのでしょうか。

ウェインが丘の上で、「忘羨」を吹いています。また戻ってきたみたいです。

「ウェイン」という声が聞こえ、

ウェインがゆっくりと振り向きます。


https://kakuyomu.jp/users/sepstar/news/16817330666014744426


その視線の先に、ランジャンが立っているのは確かです。


この肖戦さんという役者さんの笑顔はとてもかわいくて、魅力的です。

このドラマは、中国では社会現象になるほどの大ヒットだったそうですが、その成功の大きな部分は、おもしろい人物設定と、このウェインの笑顔とランジャンの美しさにあったように思います。よくこういうぴったりの人を見つけましたよね。

このドラマはこうやって、ウェインの笑顔で終わっています。

それも、すてきな終り方だと思いました。


ドラマの中で、特に印象的なスナップは、上のウェインの笑顔がひとつ、

そして、町に行って、空から花が降ってくるのを見上げているランジャンの姿。

(写真)

ランジャンはこういう華やかなものを見たのは初めてなのでしょう。

ピュアなところがよく表れていました。


そして、もうひとつ。

この夜、聶懐桑は祖先の秘密を話すことになるのですが、

宿の部屋にランジャンと仮面をつけてはいってきた時の、彼の表情です。

(写真)


聶懐桑はウェインが生き返ったことは知っていましたが、面と向って会ったことはありません。そのウェインが莫さんの仮面をつけて現れたのですから、さぞ驚いたことでしょう。驚くと同時に、「こうやって、本当に生き返ったんだ」と思い、うれしかったと思います。

それが、この表情、イノセントでストレートで、印象的でした。


というわけで、私の「陳情令」はおしまいです。

2、3回だけ書く予定でしたが、途中ではまったしまい、こんなに長くなっていました。はまるものに出会うというのはめったにないですからね、

楽しい時間でした。謝謝。




  完





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陳情令 九月ソナタ @sepstar

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