第23話
「ガ、ガ、グッ」
口と穴が空いた腹部から血をたらしながら、ゴブリンキング・メイジが杖をゆっくりと振り上げた。
「致命傷のはずだが? まだ動くか、なら······〈肆式──」
センが刀を構えて、スキルを使おうとした瞬間。ゴブリンキング・メイジは後ろへと倒れた。
「なんだ、やはり致命傷だったか」
センは構えを解き、刀を鞘に納めた。
「最後まで、王としての務めを果たしたか、見事だ、ゴブリンのお──」
「バカヤローッ!」
センが言っている最中に、ムクロはセンの後頭部を叩くがびくともしなかった。
「なんだ主か、どうしたんだ?」
「どうしたんだ? じゃないよ! 変異種とはいえ! ゴブリンキング・メイジ相手に〈縮地〉を加えた〈剛穿ち〉は過剰すぎるわ! お前はただでさえ物理攻撃力高いんだから! スキル使わずに勝てたろ!」
「我はただ、目の前の敵を全力で排除したまでだ。それに我と同じ王であれば尚更だ」
「だからって〈奥義刀術〉を使うな!──って、もういいや。これじゃあ、きりがない······」
しかし、すごい威力だな。本来〈剛穿ち〉は貫通力は高いけど威力はそこまで高くないはず、センの物理攻撃力が相まって威力が高まってるな。
「ムクロ······」
「ん? フェルネス?」
ムクロが振り向くと少し暗い顔をしたフェルネスがシグマに支えてもらいながら近づいてきた。
「もう大丈夫なの?」
「はい、大丈夫、です。あ、その」
「どうした?」
「ごめん、なさい」
フェルネスは突然、ムクロに向かって謝りだした。
「ちょ、ちょっとまって、なんで謝るの?」
「私は······ムクロに迷惑をかけた······から。それに、ムクロは、あの時、忠告したのに······私は」
「別にいいよ。変異種が出てくるなんて、予想出来なかったんだから。謝ることじゃないよ」
「で、ですが──」
「それにだ。フェルネスのレベル上げを言い出したのは俺だしね、俺にだって非はある」
「そ、そんなことは──いって」
ムクロはフェルネスの頭に軽くチョップをした。
「はい、そこまで、フェルネスが気にすることじゃないよ。なっ」
ムクロはフェルネスの頭を撫でると、フェルネスは頬を少し赤らめた。
「んっ、ムクロがそういうなら······わかった」
「うん、今はそれでいいよ。じゃあ俺はゴブリンの素材を回収しくるから、フェルネスは休んでて」
「はい」
「シグマとノワールはそのままフェルネスをお願い」
「承知致しました」「お任せください主君」
シグマとノワールはほぼ同時に返事をした。
「クロは周囲の警戒をよろしく」
「心得マシタ」
ムクロはフェルネスをシグマとノワール任せ、周囲の警戒をクロに任せた。
「やはり、主はあの娘に甘やかしすぎではないか?」
センは腕を組んでフェルネスに向かって睨むようにムクロへ喋りだした。
「そんなことないと思うけど?」
「······さて、どうだか、ところでだ。そこのゴブリンはどうするんだ? 食べるのか?」
「いや、食べはしない······って、ゴブリンって食べれるの!?」
「いや、以前我の巣穴から宝物を狙おうとしていたゴブリンがいてな、そいつらを食ってみたが食えたものではなかった」
「食ったことあるのかよ······ハァ、とりあえず使えそうな、素材と【魔石】を採る」
【魔石】。モンスターの体内にある特殊な核。高レベルのモンスターから採れる【魔石】は高性能なアイテムなどを作成することができ、種類によっては高値で取引される。
ゲームだと、モンスターは倒されると、一定時間でドロップアイテムと【魔石】だけ残るけど、やっぱり残らないか……となると。
「これ、全部······」
ムクロは周りに転がっているゴブリンの死体を見て青ざめた。
「ハァ~仕方ない、地道にやるか、センも手伝って【魔石】だけ採ればいいから」
「仕方ないな、では我は向こうをやっとく」
「あぁ、頼んだ」
向こうはセンに任せて、ムクロは目の前のゴブリンキング・メイジの死体から取り掛かった。
「変異種のゴブリンキングか、問題はこのでかい杖だな」
ゴブリンキング・メイジが持っていた杖をムクロが触れた瞬間。杖は大きさを変えて持ちやすいサイズへと変わった。
「お~大きさは変わった。ドロップアイテムみたいなものか、変わったついでに鑑定っと」
ムクロはゴブリンキング・メイジの杖に〈神の魔眼〉を使った。
【
〈INT+200〉
〈魔力筋力変換〉:INTの一部をSTRに加算させるスキル。
〈殴打強化〉:殴打による威力を上げるスキル。
「なるほど、通りで魔法スキルを使うより、物理攻撃が多いっと思ったら」
これ、俺的にはあんまりいらないな······とりあえず〈アイテムボックス〉に入れとくか。
「〈アイテムボックス〉」
ムクロは〈アイテムボックス〉を開き、【殴魔の杖】を放り込んだ。
「さて、他のはどうかな?」
ムクロが素材を回収している中、フェルネスたちは近くの木陰で座り込んで休んでいたが、フェルネスは浮かない顔をしていた。
「いかがいたしましたか? フェルネス様」
「シグマさん」
浮かない顔をしていたフェルネスに気にかけてシグマが話しかけてきた。
「ムクロはさっき、気にしないって言ってましたが、やっぱり私の中では許せなくて」
「どうしてですか? マイマスターは別に気にしてませんよ?」
「いいえ、私······ムクロから
フェルネスは涙目となり始めるがうずくまるが、誰かが肩をポンと叩いた。フェルネスは隣を見ると、そこには座り込んでいた、金髪でロングポニーテールのノワールだった。
「ノワール、さん······」
ノワールはフェルネスに向かってニコっと笑った。
「フェルネス殿、主君が先ほども言ったじゃないですか、フェルネス殿が気にすることじゃないですよ」
「で、ですが、私──」
「それにです。フェルネス殿は確実に強くなれてます! あのゴブリンキングの変異種クラスだって、単独で倒せるようになりますから!」
ノワールはフェルネスに向かって両腕を前に出してガッツポーズをした。
「そうですよ、フェルネス様。ですが······ノワール様は精神面に至っては、弱いですからね」
「なっ!? シグマ殿!」
ノワールは咄嗟に立ち上がり、シグマの目の前に向かった。
「それは言わないください! 私はこう見えても伝説級のモンスターなんですよ! 上から二番目なんですよ!」
「あら、申し訳ございません。ですが、ノワール様の精神面は下級以下ではありませんか?」
「シグマ殿!」
フェルネスはシグマとノワールの会話を見て再び笑顔に戻り、指で涙を拭った。
「シグマさん、ノワールさん」
シグマとノワールは名前を呼ばれて、フェルネスの方を振り向き、フェルネスは立ち上がり、シグマとノワールへ振り向いた。
「私、シグマさんたちを見ていたら、なんか元気がでました。私、頑張って強くなります!」
笑顔になったフェルネスを見た、シグマとノワールも笑みを浮かべた。
「その意気ですよ。フェルネス様。それに、これからは私たちのことは呼び捨てで構いません。呼び捨ての方がしっくりきますので」
「え? ですが──」
「私も呼び捨てで、構いません。フェルネス殿」
フェルネスはノワールの後押しもあり、名前を呼び捨てで言い始めた。
「で、では、改めまして、今後ともよろしくお願いします! えっと······シグマ、ノワール?」
フェルネスは名前の呼び捨てに不慣れなところがあるが、シグマとノワールは笑顔で受け入れてくれた。
「「はい! よろしくおねがいします!」」
このあと、フェルネスはシグマとノワールと共に時間が許す限り、雑談を行った。
最強召喚士が異世界で従魔無双~それってありですか?~ 彼岸花 冠 @kamuri_higanban
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