第5話 おくりもの(前編)

「はてさて……」

本町は腰に手を当て、目の前に広がるダンボールの固まりを見た。


本町が今手につけている仕事、それは搬入作業だった。そのため、今彼は書店の裏口に手配されていた出版社からの荷物を受け取り、傍にある台車を使って大量のダンボールを店内に運び入れようとしていた。


「寒いなぁ……。夏が恋しいよ……」

隣で本町と一緒に働く五十嵐かなえという女性が呟く。手を摩りながら息を吐いた後、ダンボールを「よっこらっせ」とおっさんらしい声を出して近くの台車に乗せる。


「……なに笑ってるんですか」

ダンボールを抱えていた本町がかなえに向かって微笑む。そんな彼を見て、かなえは美白な頬をピンク色に染めて恥じらいだ。


「笑ってないで仕事して下さいよ。この書店の店長なんだし」

「はいはい」

本町とかなえは立場は違えど、もとは同期だった。そのため、彼らは仕事中や休憩中はいつもタメ口で話している……らしい。


「それにしても……多いな」

ダンボールをある程度台車に積んだ後に本町が言うと、「そうですね」とかなえが頷いた。

かなえは傍の台車に寄り、その台車に積んでいたダンボールに書かれてある宛先を一瞥する。

「講小社……から来ているらしいですね」

「そうか」


一言呟いてダンボールを他の台車に乗せると、本町は「よし、台車を動かすぞ」とかなえに声をかける。「はーい」と可愛らしい声でかなえは本町の後を追って台車を押した。



全ての荷物を店内に運び入れ、普段関係者以外しか立ち入ることができない最上階──五階へエレベーターで上る。倉庫となっているその部屋で台車から荷物をおろし、また台車を押してエレベーターで一階へと降りる。


その動作を繰り返すと、いつの間にか昼の十二時過ぎになっていた。


「よし……休憩するか」

本町が背中をそりながら言う。ポキポキという音が倉庫に響いた。

「はーい。……ん?」

「どうかしたのか?」

山積みとなっているダンボールの隙間を見てかなえが首を捻る。彼女がダンボールの隙間にしゃがんで手を伸ばしているところを本町が見ていると、やがてかなえはあるものを本町に見せてきた。


それは一枚の紙で、しおりだった。


「しおり? なんでそんなところに」

「分かりません」かなえが手に持っているしおりを見ながら呟く。


そのしおりは白い紙で、模様は特になく会社名とかも記されていなかった。

「どこかの本に挟まっていたんですかね」

かなえがあざとく首を捻っていると、そのしおりに何か気がついたのか「ちょっと」と本町が彼女の顔の前で手を振る。子犬のような目で本町をかなえは見た。


「それ……血、ついてない?」

本町が言うと、かなえは赤褐色に染まっているしおりの端に注目した。

「ほんとだ。……って、なんで?」


かなえが傾げた時、微かに冷たい風が吹いた気がした。

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街の本屋で働く元探偵さん。【連載版】 青冬夏 @lgm_manalar_writer

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