第4話 いざこざ、解決。(後編)
「な……なんで分かったのよ」
静香は蚊の鳴くような声で呟く。
「あなたは確か、“万引き”を疑われた時に激昂しましたよね?」確認するような口調で本町は言うと、「ええ」と静香は苛立ちを込めて乱暴に放った。
「“万引き”と疑われ、あなたは激昂した。そして、あなたは“本”を盗むわけがないと」
「ええ。それが何か?」苛立ちを込めた静香の言葉は、明らかに敵意が含まれていた。
「卓也さんは身体のどこかに隠したところを目撃した際、本とは言っていないはず。それなのに、どうしてあなたは“本”と言い切れたのでしょう……?」
目をスッと細めて本町は女性を見つめる。逡巡を示した静香は目線を彷徨わせる。
数秒が経過すると、静かな間合いに彼女が溜息をついて言葉を放った。
「すいません。万引きをしました」
頭を深々と下げると、本町は「どうしてそんなことを?」と首を傾げた。
「私……あんまりお金がなくて。今の今まで非正規でどこか雇って貰えてはいたんですけど、先週解雇されてしまって。それで、職探しでこの街に出ていて、丁度この本屋があったからたまたま寄ってみたんです。そうしたら、ここに今まで欲しかった文庫本があって……。でも、でも自分の財布を見ても全然それを買うお金が足りなくて……」
辿々しく自ら話していく姿を、本町は優しい目つきで見続ける。
「それで……万引きをしてしまったと」
静香は弱々しく頷いた。その様子を見た本町は「うーん……」と腕を組んだ。
「私は……警察に連れて行かれるのでしょうか」
懇願するような目つきで本町を見る。本町の黒縁の眼鏡が光った。
「いいえ」本町は首を振った。「確か、あなたは先週解雇されてしまった身なのですよね?」
「え、ええ……」戸惑いつつも彼女は頷く。
「それでしたら、うちで働いて、その本を購入することをおすすめします」
「え?」
突拍子もないことに静香は驚く。隣の卓也も少し目を見開いた。
「良いですか……? ここで働いても……?」
「ええ。構いません」
優しく本町は頷くと、静香は慌てて椅子から立ち上がって「よろしくお願いします!」と勢いよく頭を下げた。その勢いで、彼女は椅子に額をぶつけた。
数秒経過して彼女が頭を上げた後、「いつからですか」と本町に訊く。
「では……明日からでも、大丈夫ですか?」
「え、ええ……はい! よろしくお願いします!!」
元気よく声を出し、かつ頭をまた勢いよく下げる。またもや彼女の額に椅子がぶつかった。
「それではまた」本町が呟く。
「はい。ではまた明日」
女性が嬉々として部屋を出て行く。その姿を見た卓也は「……ったく」とホッと溜息をついた。
「また従業員を増やしても良いんですか? 本町店長」
「嫌だなぁ~……。店長だなんて」照れながら本町が言う。
「いやもう今は店長だろ? 俺はもう店長の座から退いたし」
おどけながら卓也は言う。その姿を見ながら、本町は机に置いてあった文庫本を手に取り立ち上がった。
「そう言えば」卓也が部屋から出る本町を止める。
「一つ訊いていなかったことがあるんだけど、良いかな?」
「なんです? 今は仕事中だから手短に」
「わかったわかった。ったく……生真面目なヤツだからよ……」
鳥の巣のような頭をカリカリと卓也は掻く。
「お前、どうしてリストラされた人たちを再雇用してるんだ?」
そう質問され、本町は「それは……」と一度言葉を切り、息を吸った。
「自分の両親を殺した犯人に繋がる手掛かりを、見つける為だよ」
と言い、彼は小部屋から立ち去った。その姿を卓也は目を細めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます