第2話 いざこざ
店内に女性の悲鳴が響き、何事かと店内にいた人達が一斉に顔を振り向く。本町も例外ではなく、悲鳴が聞こえた先に視線を向けると、入り口前で女性が何やら困り顔をしていた。その隣には仏頂面をした男性が立っており、華奢な体つきをした女性の腕を掴んでいた。
「何かありましたか」
本町が小走りで女性のもとに駆けつける。近くで見ると、女性の子どもっぽい顔つきからあどけなさを感じさせた。
「この男を……捕まえてっ!!」
ヒステリックに女性は叫び、男性は顔を思わずしかめた。
◇
片隅にポツンとある小部屋。レジ横にその部屋はあるのだが、スタッフのみの利用を想定しているだろうか、本町と女性、男性の三人では狭く感じた。
女性は色白で子どもっぽい顔つきだが、眉間には微かにそばかすがあり、それを隠すように化粧が濃く感じた。後々の話で、名前は大田静香と言うらしい。
一方、隣に座る男性は無機質な顔つきをしていた。だが、肩幅の広さや手首から浮き出る血管から筋肉質かも知れないと本町は悟った。こちらも後々の話で、男性の名前は本郷卓也と言うらしい。
「えと……まず、どうして悲鳴をあげただけ聞かせて貰っても良いですか?」
本町は女性に顔を向けながら話す。静香は本町に食いつくようにして、間にあった机に自身を乗り出す。その時にアルミ製のテーブルから軋む音が響いた。
「私が外に出ようとした瞬間、急にこいつが私の腕を掴んだの! やめてって睨んだはずなのに、全然腕を放してくれないから悲鳴をあげたのよ!」
ヒステリックに静香は言う。その隣の卓也は顔をしかめていた。
「なるほど……」本町は顎を撫で、視線を隣に向けた。
「腕を掴んだのには、何か訳が?」
「ああ」卓也は低い声で話す。「俺はこいつが本をどこかに隠そうとしているところを見たんだ。ただ、見たのがほんの一瞬だったんだが、自分の身体のどこかに“何か”を入れようとしていたんだ。それで、俺は咄嗟に声もかけようとして腕を掴んだんだ」
「なるほど。ということは、万引きを疑った……と?」
確かめるような口調で本町は言うと、「冗談じゃない!!」静香は机を叩いた。隣の卓也はまた顔をしかめた。
「なんで私が万引きなんてするの!? そもそも、なんでこいつは私の事を見ていたの!? なんでこの私が本を盗まなきゃいけないのよ!! この変態!!」
静香が喚き散らかす。しかし、そのことを無視し、本町は視線を下にして顎を撫でていた。
──入り口前には防犯カメラがあるから……。
本町はズボンのポケットから携帯を取り出し、どこかへ電話をかけた。
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