第36話
「……はぁ」
息を吐き出す。
情報量が多すぎる。
ふらふらと、僕は魔王城の居住区の中を歩く。
見回りの時間では無いからか、それとも防犯カメラがあるからか誰にも出くわさない。
あてもなく歩いて、
「はぁ」
また息を吐き出した。
僕自身のこと、母さんのこと。
色々な考えが頭の中をめぐる。
初代魔王が魔剣を手に入れた経緯は知ることができた。
それはいいことだ。
でも、まさか、別件でわからないこと、謎が増えるとは思っていなかったのだ。
いや、謎とは言えないだろう。
代理母や医療生殖行為について、できそうな人物を僕は知っている。
「父さん、だよな」
ざっくりとだが、母さんが生きていた頃に、最後になるかもしれないから、と父さんの話を聞いていた。
それによると、僕の父さんはかつて戦災孤児だったのはその通りなのだが、生きるためにとある研究施設で働いていたことがあるらしいのだ。
生前の母の言葉が蘇る。
『物凄く勉強してね。
その研究施設の施設長さんに、とてもよくしてもらったんだって。
でも――』
母の声が脳内で響く。
『ある日、その研究施設が戦争による攻撃で粉微塵になっちゃって。
施設長さんも、ほかの研究員の人たちも亡くなってしまったらしいの』
ようやく自分の居場所を見つけたと思ったら、父さんはまた一人ぼっちになってしまったのだ。
そうして、流れ流れてこの魔族の国へやってきて母さんと出会ったらしい。
脳内で母さんの言葉が続く。
脳内で母さんの声が響く。
『幸いだったのは、その時に父さんが学んだことがこの国で仕事をするのに役立ったってことかな。
ツクネは、不妊治療は知ってる?
そう、赤ちゃんをなんらかの理由でつくれない人たちへの手助けになる技術。
それをお父さんは持っていた。
それを使って、たくさんの【お母さんと赤ちゃん】を救ってきたの』
答えは、すぐ側にあったのだ。
答えは、目の前に用意されていたのだ。
『お陰で、私もツクネを授かれた』
僕は母さんから、前もって聞いていたのに。
なんで忘れていたんだろう?
僕はなんとなくいつもの癖で持ってきてしまっていた携帯端末を見た。
なんとはなしに操作して、先程まで書き込みしていた掲示板を出す。
考察厨の私見、書き込みを見る。
とにかく、僕がうまれてくるには、技術とそれを可能にする設備が必要だったというのだ。
闇が深い、とも書き込みされている。
きっとそれは、その通りだ。
なんとなくだけど、僕に関する事柄はヤバい案件のような気がする。
この件に関しては、ティオさんやエリーは無関係だ。
きっと、巻き込んじゃいけない。
「……秘密、多すぎだよ。
父さん……」
呟いた時。
パタパタと足音が近づいてくるのがわかった。
振り向く。
「あ、いた」
エリーだ。
「……あの、ツクネ」
エリーが、言葉を探しているのがわかる。
僕に気を使っているのがわかる。
だから、僕は、彼女がなにか言う前に、口を開いた。
「ほんと、びっくりしたよねー」
明るくなるように、声に気をつけてそう言った。
「……え?」
「ちょっと驚き過ぎちゃった」
営業スマイルは得意だ。
「だってさー、最初は初代が魔剣をどうやって手に入れたのかってところだけ気にしてたのに。
まさか、僕自身の話題になるとは思わなくて。
エリーは驚かなかった?」
「えっと、その、うん、驚いた。
とっても、驚いた」
「だよねー」
僕はヘラヘラと笑ってみせる。
ヘラヘラ笑いは意外と効果があるのだ。
「でも、うん。
これについては、ちょっと考える時間というか、受け止める時間がほしいから。
今後、エリーの方から聞くのは遠慮してもらっていいかな?
後でティアさんにもお願いするけど」
「え、う、うん」
デリケートな問題だからか、エリーはあっさりと頷いてくれた。
その後、僕はエリーと一緒に自室に戻った。
そして宣言どおり、ティアさんにもこのクローンだのなんだのという話題は、僕の中で受け止めるまでの間ださないようにとお願いしたのだった。
ティアさんも頷いてくれた。
そんな僕たちを、スネークと特定班がなんとも言えない表情で見ていた。
しかし、言っておくべきと考えたのかスネークが、
「お前は、それでいいのか??」
そう確認してくる。
「うん、この2人にはそうしてもらう」
スネークは頷いてくれた。
「了解」
続いて特定班も、
「まぁ、スレ主がそう決めたのならこっちがとやかくいう権利はないわな」
納得してくれた。
何よりも、スネークと特定班には、ちゃんと伝わったようだった。
そしてこの日はこれで解散となった。
連載版【怖くなって】魔剣引っこ抜いた件【逃げてきた】 ぺぱーみんと/アッサムてー @dydlove
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