プロタゴニスタ

@TKandco

第1話 オフホワイトの春

「最寄り駅で毎週土曜にスパイダーマンの格好をしてバイオリンを弾いているおじさんがいます。その人のようになりたいです。」

就職活動の中で必ずされたことのある、「将来どんな人になりたいですか」の質問に対して今の私であればこのように答える。

これは未熟の僕が、湯で時間4分くらいのゆで卵くらいの大人になるまでの物語だ。


大学1年 春


入学早々、大きな壁にぶつかっていた。友達ができない。高校までは、部員数が80を超える花形のサッカー部。県内では有数の競合校であり、学校内の存在感はどの部活よりもずば抜けて大きかった。その部活に所属していることが、クラスの中心グループに入るための「会員証」であった。たとえサッカーの実力がなくてもだ。もちろん、サッカーの実力がある部員のほうがたいてい明るく、クラスを超えて学年でも目立つグループの「VIP会員証」も持ってることが多かったわけだが。

私は、サッカーに関しては実力がない側であった。しかし、大阪出身で毎日浴びる量の酒を飲み、毎日「 go to bed」なのか「go to living room floor」か英訳できない寝方をする母のおかげで鍛えられた話術やつっこみ、さらに近所のおばちゃんに会うたびに、またかっこよくなったわねと言われる程度のハンサム度ももちあわせていた。

そのため、いわゆる陽キャではなかったが、もちろん「会員証」を持っていたし、VIP会員のメンバーともかなり交流があった。つまり、知らない人にこっちから話しかける機会がほとんどなかったのだ。

また、浪人もしてしまっていた。浪人時代は、生活に必要な時間を極力カットして15時間/1日を勉強に費やしていた(どう考えても私にはその勉強量が限界だった)。人の話すことは時間がかかることと感じてたし、一日に話す人の量は、行きつけのマクドの店員を含めて2人だった。晴れて大学入学が決まったときには、友達が回転ずしをおごってくれたが、人と会話することがストレスに感じて咳が止まらなくなっていた。

そんな中、学校生活が再スタート。誰も知っている人がいない。今考えれば友達ができないのは、繁華街で居酒屋のキャッチに声をかけられないで歩けるくらいの確率で起こりえることだった。

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