第21話 二週目
物語は終盤に近づいていた。明日は可憐と映画館に行き、帰りに海斗にばったりと出会い、可憐を連れて逃げる。その後は屋上に行き、美優が殺されるのを待つだけだ。
もう、俺は自分の選択肢を奪われているため、何もできない。ただ、美優が殺されるのを見るだけだ。
だが、もう一度やり直せるのであれば、と心のどこかで思ってしまう。いや、きっとまた過去に戻れる。俺の物語はここで終わるわけはないのだ。
それにしてもなぜ、ソースコードを書き換えられる程のことが出来るのに、美憂はストーリーを改変することが出来ないんだ。
「隆之介、ごめんね。隆之介のコードを書き換えることしかわたしはできないんだ。このゲームにはたくさんのプロテクトが施されていて、本来は変えることができない。でもね……」
美憂は喫茶店で俺に話してくれた。本来のシーンとは全く異なるシーンだ。美憂は演技をしているNPCにではなくて、俺に対して話しかけてくれていた。
「わたしと隆之介にだけは、そのプロテクトが施されてないんだよ」
そうか、だから書き換えることができたのか。システムにとって俺や美憂は重要な存在ではないのだろう。だが、どうして、美憂がソースコードを書き換えられるのか、その理由は話してくれなかった。
「隆之介、ごめんね。そして、ずっと好きでした。13年前にこの世界に降り立った時から、ずっとね」
何を言ってるんだ。美憂は俺のことを知らなかったはずなのに、どうして……。
「隆之介、カッコよくなったね。別に容姿なんて、わたしはどうでも良かったんだけどね」
そう言って悲しそうに笑った。何を言ってるんだよ。カッコよくなったって、どう言うことなんだ。
だが、俺は言葉を話すことどころか指一つさえ動かすことはできない。
ただ、この世界を何もできずに傍観しているだけだ。
「可憐ハッピーエンドこそが、隆之介くんが報われる最後のチャンスだよ。そして、その後はこのゲームには囚われないんだ。海斗はあの後、逮捕される。もう出てくることもない」
美憂は俺の顔に近づいて、そっと唇にキスをした。
どうして……、美憂は俺に……。
「もう、バッドエンド直行しかない。そう言うことだよな」
何言ってんだよ。そうじゃないだろ。美憂はお前にキスをしてくれたんだぞ。
そうか、可憐などと違い強制シナリオに入った俺は用意された台詞しか話すことが出来ないのか。
「ごめんね、話すこと出来ないよね。隆之介なら、例え可能性がなくても助けようとしてくれると思ってた。ごめん、すごく嬉しかったけど、わたしには隆之介が幸せになってくれる。可憐ハッピーエンドに行ってもらうしかない」
その後、美憂は以前と同じ台詞を繰り返しただけだった。フラグを守らないと可憐ハッピーエンドに行けないからだろうか。
その後のストーリーは映画館から屋上へとまるで映画を見ているように同じように進んでいく。その間、俺は何もすることができなかった。
――――――――
結局、ここに来てしまったか。
「隆之介!! お前、ふざけんなよ!!」
海斗の目には、前回と同様に俺への怒りで一杯だった
「ここは俺に都合のいい世界のはずだ。なのに、なぜ、お前は俺の邪魔をする。しかも、まるで俺の行動がわかってるようにさ!!」
終わってしまう。もう何もすることができない。
「もう、終わりなんだよ! ふざけんなよ」
手にナイフを握ってるのが見えた。冷静な俺と違い、身体の方は激しく動揺していた。
「お前、何を……!!」
海斗が走ってくる。美憂を助けないと……。だが無情にも俺は体を動かすことが出来ない。
「死ねや!!」
「……ダメ、隆之介くんは殺させはしない!!」
その瞬間、美憂が素早く動いた。美憂が俺と海斗の間に割って入る。
ナイフがスローモーションのように出された。一瞬、海斗が驚いた表情をして、振り下ろすのを止めようとするが、一度振り下ろされたナイフは止まらない。ナイフはそのまま美憂の胸を貫いた。血がドクドクと溢れてくる。そのまま美憂が俺の方にゆっくりと倒れてきた。
美憂の身体はとてもやわらかく、まるで、その身体は鳥のようだった。それは前回と全く同じところを繰り返してるだけだった。
「……美憂、なぜ、なぜお前が盾になるんだよ! 俺……俺が刺したんじゃねえぞ、ねえからな」
その瞬間、俺の身体から、自由が戻って来た。
「ごめん、ごめんね」
「美憂、喋らないでくれ……、お願いだから……」
美優の身体にはナイフが刺されたままだった。俺はそれを抜こうとして止められた。
「ダメだよ。抜いたら血が……、ゴホッ、動脈切れてるから……、抜いたらダメだよ」
「美憂、ごめん、助けられなくて……」
「いいんだよ。これがわたしが望んだラストなんだ」
そう言うと手から力が抜けた。美憂を助けられない。その現実が俺に重くのしかかる。
俺は慌てて鈴を取り出した。地面に向かって思い切り投げる。
カラカラカラと乾いた音を立てて鈴は転がっていく。何度か地面に向かって投げたが、同じことが繰り返されるだけだった。
鈴を見たが二度と鳴ることはなかった。
「なんだよ、これ……これがハッピーエンドなのかよ」
俺はギュッと美憂の手を握る。その手はまだわずかに温もりがあった。
マジ、転生しても人生詰んでる。幼女をかばって死んだら、恋愛ゲームの主人公に転生した。しかもさっきまでやってた美少女ゲームだ。この地点からだとヒロイン全員が寝取られる最悪のバッドエンドになる。 楽園 @rakuen3
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