前のこと
彼は山路に子猿が倒れているのを見つけた。母猿の姿はない。死んでしまったのか、はぐれてしまったのか。子猿はひどく痩せ衰えている。かわいそうに思ったのだろう、これを拾って養った。
彼は病を患っていた。子猿が一人で野山を駆けめぐれるようになる頃には、もう、起き上がることさえ難しくなっていた。
やがて力尽きるとき、彼は子猿に、郷里に弟を残してきたのだと、このままだと弟はひとりぼっちになってしまうと嘆いた。
──もしお前が、あの子に会うことになったら、俺の代わりにあの子を守ってやってくれ。俺が側にいたらあの子を「病の血筋」にしてしまう。俺じゃだめなんだ。だから、どうか、もしお前に人の言葉が分かるのなら、頼みたいんだ。あの子を、守ってやってくれ。
猿は確かにこの言葉を聞いた。そして頷いた。きっと家族は、大事だから、と。
猿(ましら) 藤田桜 @24ta-sakura
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