酒保しゃんぜりぜ

白山

第1話 未成年喫煙と未成年飲酒の出会い

たばこの煙を見るのは好きだ。もくもくと立ち昇る煙が、自分の日々の鬱憤を連れて行ってくれるように見えるからだ。


しかし、常に、こんなストレスの解消をしてよいのかと、俺は思い悩む。というか、よいわけがない。なにせ俺は20歳未満どころか18歳未満の未成年だからな。現在高校生。


最初にたばこを吸ったのは、確か中学2年の夏だっただろうか。もうあまり記憶に残っていないが。


ただ、一つだけ言えることとすれば、俺は今もヤニカスで、立派な犯罪者だということだ。


「はぁ〜」


俺は白い煙を吐き出す。銃口から出る硝煙のように、煙は立ち上がった。数多の発がん性物質と、数多な有害物質を添えて。


街行く人々は、俺のことを見向きもしない。制服姿で喫煙している人間がいるというのに。


静岡に住む人間は温厚だと、誰かが言っていたが、それは果たして本当なのだろうか。


絶賛静岡市葵区の、新静岡駅の裏で吸っているが、こんなにも人々は他人に無関心ではないか。それが温厚だと言えるのか。(それに俺は助けられているのだが)


タバコの命が半分になった頃に、俺はその場を去ろうとする。しかし、


「ねぇ、そこの兄ぃさん」


誰かが俺に声をかけた。


警官だろうか。いやいや。ここら辺はほとんど巡回してこない場所なはずだが。女の声だったが、もしかしてクラスメイトか。


しかし、声かけてきた人間は、そのどれでもなかった。


「どなたですか?」


俺は訝しげに言う。アメシスト色の髪をもつ、少女に向かって。


「あんたこそ誰よ。駅裏の植え込みここは私のテリトリーなんだけど」

「テリトリーて」


しかし、彼女の手にストゼロがあることに気づく。


「なるほどね」


いつもここで呑んでるのか。


いやちょっと待てよ?「お前高校生じゃねぇか」


「そうだけど」彼女はあっけらかんと言う。


彼女は制服を着ていた。しかも、ここら辺にある通信制高校のだ。


「高校生がストゼロ飲んでいいのかよ」

「あんたこそヤニ吸ってるじゃない。しかも、南高校の制服でしょ、それ」


「俺は良いんだよ。もうどうせ世捨て人みたいなもんだし」


投げ捨てるように、俺は言った。彼女は少し目を見開いて、すぐさま細めた。そして、


「そっか。じゃあ似たようなもんだね」


と、呟いた。


刹那の静寂が独り歩きし、二人の犯罪者は気まずさを覚える。


しかし、ストゼロを開ける音が、その静寂を切り裂く。俺の隣で、彼女が缶を開けていた。


「……本当に飲むんかよ」

「うん。美味しいよ」


ロング缶をグビグビと飲む彼女。潤いのある唇が、悪魔の液体を招き入れていた。


既にほとんどたばこを吸い終わってる俺は、ただただその光景を眺めていた。


「誰も私たち見てないね。ちょっとゾクゾクする」


通り過ぎる人々を見ながら、彼女は言う。


いや、そんなに楽しい光景だろうか。どこか、自分たちが社会に見捨てられているようで、惨めな気持ちにならないか。


そう思ったが、俺は何も言わなかった。


「お兄さんも飲む?ストゼロ」

「要らない」

「えぇー、いいじゃんちょっとぐらい」

「人の口付けなんて飲みたくない」

「けへへ」


艶っぽく彼女は笑う。


「じゃあタバコ吸ってよ。まだ火ついてるじゃん」

「君がいるだろ」

「別に気にしなくていいよ?なんなら、飲んでる姿じっと見られたくないし」

「まぁ、それもそうか」


言われてみたら、また吸いたくなってきた。


「すう……はぁ〜」


小さく一口味わって、吐いた。うん、うまい。


「うわ~受動喫煙です~」彼女はニヤニヤと笑う。


「副流煙の方がうまいらしいが?」

「うわ、クズすぎ」

「嘘だよ」

「ですよねぇ~」


なんと言うか、この娘は…どこか楽観的でノリが軽い。


まぁ見た目からしてそれは察せられる。


紫色に染めた、カールのかかったボフヘアー。長いまつ毛。おちゃらけた模様をつけた爪。ギャルとは違ったケバい雰囲気。


けどツラは良いもので、目を見張るものがある。学校に居たら指折りの姫として崇められるだろう。


「んっ……はぁー、おいしい。やっぱり仕事前の酒は最高だな!!」


「ちょ、おま声でけぇって」


先ほどまで俺らを無視していた人々が、彼女の声と共に注目をこちらに向けてきた。


中には、携帯電話を耳にかざしている人もいた。絶対警察に通報してるだろ。


「どうすんだよ」


まぁ、兎にも角にも逃げるしかないのだが。


「え?お兄さんどっか行っちゃうの?」

「いや…ワンチャン警察来るし…」

「捕まっても良くない?別に未成年は罰せられないんでしょ?」

「高校退学になるかも。いや、なるね。多分」

「高校辞めたって……お兄さん世捨て人って言ってたじゃん」

「まぁそうだけど……そうじゃないんだよ」


彼女のせいで、自分の内にあった矛盾が掘り起こされているような気がした。



「私はもうここから離れる気ないよ」



遠方から、警察車両のサイレンが聞こえた。



「君は世捨てをするのか?」



俺は疑問を投げかける。



「ちょっとね」



寂しそうに、彼女は言う。



「全然まだ、腹決めてない感じに見えるけど?」



彼女がしてきたように、俺も彼女の矛盾を掘り起こす。



「警察に捕まったら、決まるかもね」



今度は、どこか悔しげに彼女は言った。



俺は見かねて、彼女の手を引っ張った。



遠くへ走って、サイレンの音から逃げるように、馬のように駆けた。


彼女は一体どんな表情かおをしていたのだろう。けど、ついてきたということは、悪い顔はしていなかったのだろう。


その日、二人の犯罪者は、捕まることなく警察から逃走した。

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