ヘタレ絵描きの俺は画像生成AIの力で神絵師相手に無双する

永久保セツナ

第1話 ヘタレ絵描きの俺、AIで無双する!(笑)

 俺はお世辞でも、誰かに絵を褒められたことがない。

 幼稚園児の頃は描いた絵を親に見せると首を傾げて「これ、何を描いたの……?」と真顔でかれていたし、中学の美術の時間では自分の似顔絵を描いたが、絵を見た美術教師に「ふざけてないで真面目に描け」と叱られた。真面目に描いた結果がその絵なのだが。

 学校の休み時間に落書きしていたら友人に見つかってからかわれたこともあったが、俺にとって「絵が描ける」というのは一種のステータスであり憧れだったりする。クラスで一人はたいてい絵のうまい奴がいて、彼ら彼女らがチヤホヤされて文化祭のポスターなんかも頼まれているのを横目に見ながらうらやましく思ったものだ。

 一度、そういういわゆる「神絵師」のクラスメイトに絵の描き方を教えてほしいと頼んだことがある。最初は快諾かいだくされて丁寧に教えてもらっていたのだが、「いや、ここはそうじゃなくて……」「あー、違う違う! なんでそうなるの!」「なんでこんなものも描けないの!」とだんだんイライラした口調でダメ出しをされ、最終的に「これ、わざとやってるんじゃないなら君に才能はないよ」とバッサリ切り捨てられた。悔しかった。

 俺だって必死こいて描いてるんだ。そんな言い方しなくたっていいじゃないか。

 復讐心で絵筆を握って、がむしゃらに紙を鉛筆で引っいても、出来上がるのはよくわからない何かだ。


 ふん、馬鹿馬鹿しい。ちょっと絵が描けるからって偉そうにしやがって。やーめた。絵が描けなくても生きていけるし、俺の人生に支障はない。


 それきり、俺は絵を描くのを諦めた。

 俺が再び絵を描き始めたのは、三十代になってからのことである。

 素晴らしい発明がネットを席巻せっけんしていた。

 画像生成AIだ。

 神絵師の絵を何百枚も集めて取り込んで、AIに学習させる。そして、AI絵師がちまたで「呪文」と呼ばれている指示を出せば、あとはAIが絵を描いてくれる。そうすれば、理想の神絵が生み出されるという具合だ。絵を集める過程が大変に見えるかもしれないが、そういう神絵をネットの海から拾い集めてきて公開しているサイトがある。そこからローラー式に絵を集めてAIにインプットするだけ。地道に何年も絵の練習をするより、ずっと効率的だ。

 俺は早速画像生成AIを手に入れて、AI絵師になった。

 試しに何度か呪文をAIに打ち込んで、絵を出力してもらう。AIにあれこれ指示するのはコツがいるが、生み出される絵はどれも素晴らしい。手の描き方がちょっと甘いところはあるが、絵を見るやつなんてたいてい顔が良ければ許してくれる。そこら辺は妥協だきょうしてもいいだろう。そもそも手を描くのが下手なサンプル元の神絵師が悪いのだ。それに、神絵師が手を描くのが下手なら、AIだって手が下手でも許されるだろう。

 俺はAI絵に夢中になった。これは、ライトノベルでいうなら無敵のスキルを手に入れて、今まで俺をバカにしてきたやつら相手に無双するような感じ。これから俺は神絵師たちに一泡ひとあわ吹かせてやるのだ。


 俺のAI絵無双が始まった。


〈続く〉

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