第8話 次なるターゲット2
どうやら、黒髪ロングの元気そうな子が『ひなた』、茶髪セミロングの大人っぽい容姿の子が『さやか』、黒髪ショートで口数の少ない子が『ゆい』と言うらしい。
「ねえねえ、ゆいちゃん、そのケーキちょうだ~い。これあげるから!」
ひなたはそう言って、自分のケーキを切い分け、ゆいの皿に入れた。
「いいよ~。はい、どうぞ」
ゆいも自分のケーキを切り分けて、ひなたに渡す。
「ゆいちゃんのケーキも、おいしいねぇ〜」
ひなたはもらったケーキをもぐもぐと頬張りながら嬉しそうに言った。
三人はひとしきり雑談を交し合うと、さやかがゆいに問いかける。
「……でさ、ゆい、今日はどったの?」
「う、うん。実はね──」
ゆいはゆっくりと話し始めた。
***
「なるほど──、青春ですなぁ~」
一乃瀬は訳知りな顔をしながら何度も深く頷いた。
「何がなるほどなのよ!」
一乃瀬の悟り切ったような顔にイラっとした楓蓮が肘で一乃瀬の脇を突つく。
「オホッ、オホッ……」
一乃瀬は煎餅を喉に詰まらせたのか緑茶を急いで啜った。
「……ゆいさんっていう子が、初めてのできた彼氏さんとデートをすることになったんだね。それでどんなデートにするかを友達に相談してたってことだね!」
黒崎は楓蓮の話を簡単にまとめた。
「そうなの。絶対成功させてあげたいな!」
楓蓮はそう言うと二度ほど頷いた。それに呼応して一乃瀬と黒崎も頷く。
「いいんじゃないか。いいターゲットを見つけたじゃないか。でかしたぞ、楓蓮!」
一乃瀬はそう言うと、親指を立てて楓蓮に突き出した。
「で、そのデートの作戦会議を月曜の放課後にやる訳だな?」
一乃瀬が楓蓮に確認する。
「うん、そうみたい。カフェではゆいさんが彼氏と付き合うまでの馴れ初めの話とかで盛り上がっちゃって、結局、デートをどうするかの相談は月曜日に改めてって言ってたわ」
「で、どこで次の相談するのかは言ってたか?」
一乃瀬が続けて問う。
「うん。学校で相談するのは恥ずかしいから、放課後にこの前と同じカフェでって言ってたわ」
「でかいしたぞ、楓蓮……!」
一乃瀬はガッツポーズをしてから一瞬黙り込む。一瞬の間を不審に思った黒崎と楓蓮は何事かと一乃瀬を見つめる。
「……んん」と一乃瀬は握り拳を口の前に当ててわざとらしく咳き込むと、
「明日、ファースト・コンタクト作戦を決行する!」
と高らかに宣言した。
「――私は二度目になるんですけど……」
と楓蓮は小さく零した。
インビジブルハンズの日常 天月 夜鷹 @oishii141
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