第7話 次なるターゲット
「はい、はい!私、一人心当たりがあるの!」
楓蓮は手を挙げてそう言った。
「おお、いいね!さあさ、どうぞどうぞ──」
一乃瀬は煎餅の入った器を楓蓮の前に移動させ、楓蓮の話を待つ。
「あ、ありがと」
楓蓮は一番上の海苔煎餅を取ると両手で掴んで一口齧ると徐おもむろに話し始めた。
「この前の休日にお気に入りのカフェに行ったんだけど──」
***
楓蓮はいつものように行きつけのカフェの扉を開いた。カフェの中はいつも通り、それほど混雑はしておらず客はまばらだ。華やかな今風のカフェではないので、お客さんの年齢層は割と高めで、二十代のお客は私くらいのもの。だいたいが五十代のお客さんだ。
店内には軽やかなクラッシックが流れ、その上にポツポツとお客さんの声が混じるが心地いい空間に感じる。
「いらっしゃいませ!」
いつもいる元気な女性の店員さんが声を掛けてくれた。この人はいつも綺麗な亜麻色の髪をくくってポニーテールにしている。その声は元気でハキハキしたものだが、この静かなカフェの雰囲気に合っているように感じてしまうのが不思議だ。楓蓮の頬は自然と綻ぶ。
楓蓮はいつも座る席に腰を下ろし、メニュー表は見ず、いつも通りカフェ・オレを注文した。
休日は大体このカフェに来ている気がする。楓蓮はここのカフェ・オレを片手に読書をする時間が好きだ。このカフェを発見できたのは本当に偶然の産物だった。
「あの2人には感謝しなきゃね──」
その偶然の担い手である一乃瀬と黒崎の顔を思い浮かべて微笑し、カフェ・オレに口をつける。
「カラン──」
扉についている鈴が鳴り、女子高生くらいの三人組がカフェに入って来た。
こんなカフェに若い子が来るなんて珍しい。
「……入るの勇気いるけど、来てよかったね!」
三人組のうち黒髪ロングの子が嬉しそうに言った。なんだがとても元気そうな子で、カフェにいるよりも走っているのが似合いそうだ。
その子が言うようにこのカフェはなんと言っても入りづらい。なぜならば、あの外観なんだから。
看板の塗装は剥げて錆が浸食し、店名はかろうじて読める程度。しかもその看板は傾いて壁に取り付けられている。店自体も古民家風で長年の風雨によってかなり傷んでいる。自分一人だったらまず入らないような店だ。
「──本当だね。でもさすが『隠れた名店17』に選ばれただけあっていいところ〜」
もう1人の大人っぽい茶髪のセミロングの子が少し興奮気味に言う。
そんなのに選ばれていたんだ、知らなかったな。
あの外観に対して、この内装。私も初めてここに来た時はあの三人組のように驚いた。あんなに外は古びた建物なのに、中はしっかり改装されて、シックでおしゃれな空間が広がっている。精錬されてシンプルなインテリアと少し暗めの照明。各テーブルには水に浮かぶキャンドルまでもが置いている。
「秘め事にはぴったりのお店だね」
一人目の元気そうなセミロングの子が後ろのまだ一言も喋ってない子に向かって、小声で言った。
「……もうそんなんじゃないよー。早く席に座ろ」
話しかけられたショートヘアの子は席を探してキョロキョロする。
いつものポニーテールの店員さんが三人を席に案内する。その席はたまたま楓蓮の近くだった。
秘め事か──。なんか初々しくてこっちがテンション上がっちゃう。
そういえば、一乃瀬と黒崎が言ってたっけな。カフェではいろんな悩みや相談事とか夢、願い事が会話の中で出てくるから、カフェで聞いた話からターゲットを決めることがあるって。私も初めてターゲットを見つけられるかもしれない!
そんな期待を胸に、カフェ・オレを嗜みつつ女子高生三人の会話に耳を傾けるのだった。
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