第二話 デート大作戦

第6話 閑話休題

この305号室は金持ちである黒崎が、見えざるインビジブル・ハンズのために契約してくれた部屋であり、三人は普段このアジトを拠点に日夜活動に勤しんでいるのだ。


この部屋が本部になる前、アジトが欲しいと一乃瀬は黒崎に漏らしたことがある。まだまだ中堅社員でしかない一乃瀬には叶わぬ願いだった。

一乃瀬がそう漏らしたことすら忘れた頃、黒崎が一乃瀬と楓蓮を案内したいと二人を連れ出した。

「俺たちのアジトとして、このマンション一棟を抑えようと思う──」

黒崎はマンションを見つめたままそう言った。

「……」

一乃瀬と楓蓮は口をポカンと開けたまま暫く何も言えないでいた。

「いやいやいやいや!!!」

二人はまるで練習でもしたかのようにコンマ秒のズレなく一斉に言った。

「俺たちの野望からしたらこれくらい相応だと思うけど?」

黒崎はさらりと言う。

「いや──待て黒崎、早まるなよ。確かに俺たちインビジブルハンズの目指すところは大きい。だが……」

一乃瀬は少し思案して続ける。

「──まずは現在の姿に相応でないとな。高みに昇るのも、まずは小さい一歩からだ。自分たちの力で少しずつ成長していくことを楽しもうや!」

一乃瀬は額の汗を拭いながらそう言った。

そう言った経緯があり、三人はそのマンションの305号室の一室をアジトとしている。

部屋は2LDK。居間は10畳もあり、三人いても広々としている。隣には緊急の際の寝室と倉庫がある。実は黒崎も同じマンションの一室に住んでいるらしいが、どの部屋に住んでいるかは知らない。親しき仲にも礼儀アリだ。

黒崎本人の財力を考えると質素な部屋に住んでいるように感じるが、本人いわくこのくらいの広さが落ち着いて丁度いいらしい。


小綺麗で無駄がない。それでいて真ん中にはちゃぶ台があり(冬はコタツになる)温かみのある居心地のいい部屋になっている。


暫し先ほどのひと騒動が収まり、各々ゆったりとちゃぶ台を囲って座る。ちゃぶ台の横には派手な包装紙に包まれた十円ガムが綺麗に整列してケースに収められている。

ちゃぶ台の真ん中にはお煎餅が山盛りの入った木の器、緑色、黒色、赤色のそれぞれの湯呑みには冷たい緑茶が並々と注がれている。緑が一乃瀬、黒が黒崎、赤が楓蓮のだ。


黒崎は木の器から煎餅を摘み上げ、頬張る。

それにしても黒崎は煎餅を食べることさえ様になるな。煎餅のクズを一粒も落とさないしな。

一乃瀬はそう思い、自分の前を見ると点々と煎餅のクズが落ちていた。

さりげなく煎餅のクズを集めて、一乃瀬はお茶を一杯啜る。

「はぁ〜、さあて次は誰にサプライズを仕掛けようか」

一乃瀬そうはつぶやいて、次のターゲットを思案を始めた。

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