「はい、こちら異世界転生カスタマーセンター、担当の社畜がお受けいたします」

山田:名誉猫又₍⸍⸌̣ʷ̣̫⸍̣⸌

序:開幕エンドロール

プロローグにしてエンディング




 ───「あ、」と意識を割いたときにはもう遅く、覚悟を決めたときにはすでにことが済んでいた。

 信号を無視したトラックに勢いよく撥ね飛ばされ、次の瞬間にはあらゆる臓腑がひしゃげて破裂していた。四肢があらぬ方向に折れ曲がり、皮膚を突き破るようにして突き出た骨が視界の端に映った。鉄錆の臭いを多分に含んだ生ぬるい液体がアスファルトと横たわるからだをしとどに濡らしていく。

 悶絶躄地もんぜつびゃくじしたのはほんの三秒程度で、その数秒を過ぎた途端に一切の苦痛が取り払われた。

 からだの末端はとうに熱を失っていて、鈍重な鉄の塊にでもなった気分だった。指先ひとつ動かすのでさえひどく億劫に思えたし、実際に動くこともないのだろう。

 底の見えない、澄んだ湖にゆったりと沈んでいくように、意識がどこまでも落ちていく。際限のない微睡が████をくるんでいるようだった。

 不意にひどい寒さを覚えて……けれどすぐに思い至る。これは寒気などではない。そう、ただひたすらに───冷たいのだ、と。







 あのとき、あの瞬間。







 たしかにトラックの運転手と目が合った。互いの視線が交錯したのを感じ取った。

 向こうもそれを知覚したのだろう。相手はわずかに瞠目どうもくし、次いで口角を上げてみせた。面白いものを見つけた、そう雄弁に語る、喜悦きえつで染まった眼差しをこちらに向けながら。

 スモークフィルムが貼られたフロントガラスの向こう側。違法車両のその内側をうかがい知るすべなどあるはずもない。だが████は男が笑っていたのを───あるいは嗤っていたのかもしれないが───見たのだ。この目で、はっきりと。

 走馬灯現象が起こるわけでもなく、これこそがに見た光景となる。

 少しのかげりもない、冴え冴えとした輝きを放つ異色の月に目を奪われたある冬の日。████の人生はこうして閉幕と相成あいなった。




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