第119話 覚醒

 静かに怒りの炎――いや、彼女の場合は氷というべきか。

 とにかく実の母親であるヘレナ・ペンバートンに対して怒りの感情を剥き出しにしている。


 こんなロミーナは今までに見たことがない。

最初は原作ゲームに登場する【氷結女帝】の片鱗が現れたのかと不安になったが……違う。


 今のロミーナは俺がよく知るロミーナのままだ。

 冷徹で感情を失った【氷結女帝】とはまるで違う。


「ロ、ロミーナ様……」


 彼女を近くで長年見続けてきたパウリーネさんでさえ信じられないといった様子で茫然としている。俺もまったく同じ気持ちだが、全身から迸る魔力を冷気に変えていくロミーナの姿はまさに怒り心頭って感じがした。


「あなたごときが私に歯向かおうなんて……愚かという言葉以外でどう表現したらよいのか教えてもらいたいくらいだわ」

「では――これならどうです?」


 ロミーナがカッと目を見開いた瞬間、室内が一気に凍りついた。


「「「「「「なっ!?」」」」」」


 俺もカルロもパウリーネさんもモリスさんも、さらにはエクリア様やカテリノ様まで驚きの声をあげる。


 な、なんて魔力だ。

 ……いや、もともとこれくらいの実力をロミーナは有していた。


 ただ、うちへ来る前は感情の高ぶりと同時に魔力をおさえられなくなって暴走していたんだったな。

 それがイルデさんに弟子入りし、鍛錬を積むことで克服していった。

 

 でもまさか、あの強大な魔力をここまで完璧に制御できるなんて。


 ――今、俺は理解した……かもしれない。

 どうして原作でのロミーナは本来の優しさを忘れて【氷結女帝】となったのか。


 彼女の持つ潜在能力の高さ。

 ヘレナ様はそれを見誤っていたのだ。


 だから冷たい態度を取り、やがて心が萎れていき……感情を失った【氷結女帝】として世界を氷漬けにしようとしたのではないか。


 あくまでも仮設だけど、ここまでの流れから察するにかなり信憑性は高いんじゃないかな。

 ……だから、今のロミーナはそんな原作設定から大きく外れた存在になっている。


 己の存在を肯定するための魔法から、誰かを守るための魔法へ。


 目の前にいるロミーナ・ペンバートンは呪縛から解き放たれて新しいオリジナルのシナリオへ突き進もうとしていた。


 それを実現させるためにも、この戦いは負けられない。

 勝って――みんなで屋敷へ帰るんだ。


 きっとその未来こそ、ロミーナにとってのベストエンディングになるはずだから。

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破滅する悪役女帝(推し)の婚約者に転生しました。~闇堕ちフラグをへし折るため、生産魔法を極めて平穏に生きる!~ 鈴木竜一 @ddd777

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