第118話 ロミーナの怒り

「あの……アズベル様」

「なんだ、カルロ」

「確かロミーナ様って、他の姉妹と折り合いが悪いって話だったと思うんですけど……」

「ああ――ついさっきまではな」


 カルロが信じられないのも無理はない。

 何なら俺やモリスさんだって信じられないし、パウリーネさんに至ってはちょっと泣いているくらいだ。

 ロミーナが幼い頃からずっと近くで見守り続けてきた彼女が一番驚いているのかもしれないな。


 ……いや、違う。


 この場で姉妹が力を合わせている光景を一番信じられないって顔つきで眺めているのは――間違いなく母親であるヘレナ様だ。


「あなたたち……」


 姉妹が仲違いするように仕向けてきたんじゃないかってくらい、特にロミーナへはひどい仕打ちをしてきた。エクリア様やカテリノ様も同じように振る舞ってきたが、彼女たちはあくまでもそうするように教えられてきた立場の存在。


 ここへ来て、ふたりには母親に対する信頼が大きく揺らいだ。


 だからこそ共闘が成立しているのだが……この場合、凄いのはあっさりとふたりの姉を受け入れたロミーナの懐の広さだよな。


 味方に引き入れてともに戦うのが一番の策であるのは間違いないが、これまでふたりがしてきた仕打ちを思い返せば判断はできてもなかなか実行にまで踏み切れないだろう。


 ――けど、ロミーナは一歩踏み込んだ。


 これからの未来へ向けて前進したのだ。

 勇気あるその一歩が、戦局を覆しつつある。


 だが、敵もさるもので怯んだ様子は見られない。


「そうですか。姉妹揃ってこの私に歯向かうというのですね……どうやら、私は育て方を間違えたようです」


 よく言うよ。

 姉妹同士でいがみ合うように仕向けていたくせに。

 その言葉を耳にしてカチンときた俺は魔銃を構える。


 そして、同じくカチンときていたらしいモリスさんとパウリーネさん、さらにカルロも臨戦態勢へと移行。


 こちらに退く気配がないと悟ったヘレナ様は強大な魔力を身にまとって迎え撃つ姿勢を見せた。


「愚かな」


 吐き捨てるようにそう口にするヘレナ様――だが、それを受けてロミーナが真っ向から言い返した。


「どちらが愚か者か、お母様には分からないのでしょうね」


 うおぉ……言っちゃったよ、ロミーナ。

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