エピローグ

最終話 アリスの秘密

 ふと目が覚めると、隣で寝ていたはずのアリスがベッドの脇に立っていた。その表情は和やかに微笑んでいるが、どことなく様子がおかしい。


 俺は半身を起こして彼女の名を呼ぼうとした。しかし声が出ない。すると――


「ジャック・アレオンさん。いいえ、孔雀くじゃく亜音あのんさん」


 彼女が言い直したのは、俺が日本で生きていた時の名前だった。


「アリス?」

 お、声が出せた。


「私を覚えていますか?」

「覚えてってアリスだろ、何をバカなことを……まさか!?」


「お久しぶりです。この世界の女神ジーリックです」

「もしかしてアリスがジーリック様!?」


「そうとも言えますし、そうでないとも言えます」

「ん? どういうことですか?」


「この子、アリスは私の分身ではありますが、女神の記憶は消してあるのです」

「えっと……」


「普通の人間と変わらないということです」


 寿命も人間と同じだし、特殊な能力があるわけでもないという。というより女神の記憶がないのだから、あっても使えないということらしい。


 それよりも俺は重大なことを思い出した。


「ま、まさか!」

「はい?」


「天上界に席が空いたから迎えに来たとかですか?」

「ああ、いえ、違いますよ」


「ん?」

「どうしました?」


「えっと、俺の考えていることは口に出さなくても伝わるんじゃなかったでしたっけ?」

「下界では直接言葉にして頂かないと聞こえません」

「そうでしたか」


「ジャックさん、この子を大切にして下さっているのですね」

「え? それはもちろんですよ」


「それにずい分色々と可愛がって……きゃっ!」


 ジーリック様は分身がこれまでしてきた下界での体験を取り込むためにやってきたとのことだった。俺とアリスが仲睦まじくしている様子は上から見ていたが、どうしてもそれを自身で感じてみたくなったそうだ。


 そして今、彼女はうっとりとしたり真っ赤になったり、腰をくねらせたりと忙しそうにしている。


 それがしばらく続くと、いつの間にか俺に向ける視線が潤んで色っぽくなっていた。


「ジャック……さん……」

「は、はい?」


「ありがとうございました」

「いえ、そんな……」


「これからもこの子をよろしくお願いしますね」

「もちろんです!」


「それで、その……」

「ん?」


「今夜はこのまま抱いて頂けませんか?」

「はえっ!?」


「私のままでは嫌ですか?」

「いや、えっと……」


「一度だけ、愛される喜びを頂きたいのです」


 するっと隣に入ってきた女神様は、アリスと同じ香りと肌ざわりだった。


 一瞬これは浮気なのではないかと思ってしまったが、元々この体はジーリック様の分身なんだから、今はその記憶があるだけでアリスと何ら変わりはない。つまり俺の中では浮気ではないという結論に達したわけだ。


 断じて女神様を抱きたいという煩悩に屈したのではない。


 そう結論づけると後は早かった。いつもアリスを抱くように、俺と女神様は一つに重なるだけだった。一度だけと言われたが……まあ、それはいいだろう。


 そして夢中で互いを求め合っているうちに、いつしか俺は眠りに落ちていた。



◆◇◆◇



「ジャック、おはよう」

「おはよう、アリス」


 二人でベッドの上で挨拶を交わしたものの、何となく気だるくて起きる気がしない。それはアリスも同じだったようだ。


「ねえジャック」

「うん?」


「私が寝ている時に何かした?」

「へ?」


「なんかその……すっごい……色々しちゃった夢を見たから……」

「色々って?」


「い、色々は色々よ。ねえ、何かしたでしょう」


 したけどしたとは言えないよなぁ。そう思っていると、彼女はトロンとした目つきで俺を見つめていた。


「ジャック……」

「ど、どうした?」


「体が熱いの……」

「えっ!?」

「お願い……」


 そのまま俺たちは日が暮れるまで、互いに激しく愛し合うのだった。


〜fin



――あとがき――

ここまでお付き合い下さりありがとうございました。

次回作は現ファン(キャラ文芸)を考えてます。

公開は今のところ未定です。

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家召喚で快適な異世界旅行を満喫します。 白田 まろん @shiratamaron

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