第20話 ダンジョンコアを獲得せよ。








 ハイボングは肉体の使い心地を確かめるかのように跳ねた。


 一度ではなく二度三度。バンバンバンと床を踏みつけて遊んでる。


「ぶぎゃ、ぶぎゃ、ぶぎゃ。」

 

「普通のボングより一回り大きいか......伊吹ちゃん、アドバイスとかある?」


「見ての通り知能は低めですし、猪のように突っ込んでくるだけですから、足を使って側面や背後から削っていきましょう。」


 僕は一つ頷いた。そして一定の距離を保ちつつ、時計回りにひた走る。


 サッ


 僕の存在に気づいたハイボングもまた走る。


 サッ


 やはりこいつもパワータイプで動きは鈍足ようだ。

 しばらく様子を窺っていると――


 ガンッ


 僕の動きを捉えること叶わず、ハイボングはまっすぐ壁に突っ込んだ。


「隙あり!」


 僕は頭をぶつけてピヨピヨしてるボングの頚椎に刃を立てた。


「くっ……」


 かなりの硬度だ、貫けない! ならばと一度引いて次を待つ。


「いいですよ。そのまま足止めないで! ヒット&アウェイ! 手数で勝負です。」


 伊吹ちゃんはまるでボクサーにつくセコンドが如くアドバイスを送っている。


 悔しそうに地団太を踏むハイボングは伊吹ちゃんの存在に気がついた。


 …そりゃそうだ。


「ぶぎゃ、ぶぎゃぎゃ。」


 ハイボングは醜く表情を歪めた。


 さもあらん。ハイボングの進化系はオークだ。

 オークは性欲モンスターで女性を優先的に襲う。


 その習性はボング、ハイボングともに当然持っていた。


「けがらわしい!」


 絶対零度の眼差しだった。女性の敵に伊吹ちゃんは容赦しない。


 日本刀の鞘で、向こう脛を思いっきり打ちつけて転ばせた。…痛そう。


「今です、明君。」

「あっ うん。」


 転んだボングの喉にナイフを突き立てた。


 血は噴出すが中々死なない。…しぶといな。


 暴れ引っかかれるがナイフは手離さない。ザッと横に勢いよく滑らせた。


「ふぅ.........ようやくか。」

「やりましたね、明君!」


 正直、バフ飯と援護がなかったら勝てなかっただろう。


「うん、ありがとう。伊吹ちゃんのおかげだよ。」


 僕たちが手を取り合って喜んでいると、血に染まった床が奇麗になった。


「おっ 凄い!」


「こういったタイプのボス部屋はどれだけ汚しても、直ぐにこの通りです!」


「奥様の喜ぶ、掃除いらず。そういえば戦闘の傷も残ってないよ。」


「はい、ボス部屋は普通の方法では壊せません。また、ここのように穏やかな気候で固定されてるダンジョンは多いですし、余りの居心地の良さに住みついてしまう探索者もいるほどです。」


「確かに.........小川の水とボング肉もあるし、絶好の引きこもり空間かも!」


「ふふっ さて冗談はこのぐらいにしてさっさと剥ぎとりを済ませましょう。」


「うん。」


 ハイボングの心臓付近にナイフを入れると赤い魔石がでてきた。


「ん、赤色?」


「はい、ボス魔石は青ではなく赤ですね。ちなみに買取価格は二倍です。」


「やった!」

「喜ぶのは早いみたいですよ。」


 伊吹ちゃんはそう言って部屋の中央を指差した。さっきは黒い靄とともにハイボングが現れたけれど、今度はキラキラと光の粒子が発生してる。…これはまさか。


「宝箱!?」


「はい。まあ、フィールドよりもボス部屋の方が比較的出やすいので。」


 クールな伊吹ちゃんに反して僕は一人エキサイトしていた。


 光は収束して木製の宝箱が現れたので、僕は急ぎ駆けよった。


「開けてみてください。」

「……うん。これは青い本?」

「それは『EXPブック』ですね。」

「確か、読むだけで経験値が得られる本だよね!?」

「はい。魔法書、EXPブックは中々出ないんですよ。」

「お! 当たりじゃん。」

「まあ、G難度の場合の表紙は青ですがそれでも500程はもらえるかと。」

「でも、僕のレベルはあがらないから伊吹ちゃんにプレゼントするよ。」

「え!? いいんですか?」

「うん。今日付き合ってくれたお礼。」

「ありがとうございます。すごく嬉しいです。」


 伊吹ちゃんは大事そうに両手で本を抱えてる。


 きっとラグビー選手がタックルしても、今の伊吹ちゃんから本を奪い取ることはできないだろう。


 しばらくして――


「では、ダンジョンコアを回収してマスター登録をしましょうか?」


 そう言われて真っ黒な柱に近づいた。中央に埋め込まれているひし形の白光を放つ石『ダンジョンコア』を抉り出すと緑のラインは光を失う。


「さあ、明君。ダンジョンステータスを開いてください。」

「うん。ステータスオープン。」


 ―――――――――――――――――――――――――――――


 名称 緑のダンジョン№964


 攻略難度      G

 ダンジョンレベル  Lv 2

 魔力総量      1/10000

 魔物総数      99/100

 展開        オン/オフ

 収納        オン/オフ

 転移        オン/オフ

 魔獣召喚      オン/オフ

 魔獣使役      オン/オフ

 バーサーカーモード オン/オフ

 強制展開      オン/オフ

 強制スタンピード  オン/オフ


 ❇このダンジョンはマスター登録されていません。登録しますかYES/NO❇

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 …うん、さっぱりわからん。

 こうなったら……困ったときのイブエモンだ。


「伊吹ちゃん。説明してもらえると非常にありがたいのですが。」


「ネットで予習してくるのは常識ですよ。仕方ありませんね明君は///。」


 そう言いつつも伊吹ちゃんは何処か嬉しそうだ。


 人差し指をピンと立てて説明を始めた。


「まずは『ダンジョン№』ですが、このダンジョンは№964。この数字が小さいほど推定討伐レベルの高い魔獣が出ると言われています。G難度の緑ダンジョンは日本に1000ほどあるらしいので、このダンジョンの難易度はイージーな方でしょう。」


「……なるほど。」


「次に『ダンジョンレベル』です。これはダンジョンボスを倒して攻略する度に上がります。上限がLv100で、周回を重ねてLv100になったら同ランク、同レベルの他のダンジョンと合成できます。これを『ダンジョン合成』呼び、合成するとダンジョンの難度をワンランク上げられます。」


「……うーん。」


「次は『魔力総量』です。これはダンジョンの保有している魔力の総量をさし、ダンジョン内の魔物、ボスを倒すたびに減少していきます。

 魔物を生み出すためにダンジョンが魔力を消費しているらしいです。

 しかし時間経過と共にダンジョンダイヤが外部より魔素を吸収して少しずつ回復していきます。

 そしてこの魔力総量が上限に達したときに発生するのが『スタンピード』ですね。よってスタンピードの発生を未然に防ぐためにも定期的にダンジョン内の魔物を倒す必要があるわけです。


「………」


「魔物総数はそのままダンジョン内の魔物の数です。次に展開についてですが...。」


「ちょっと待って、頭が追いつかない! これ以上は知恵熱でちゃうよ。」


「そうですね。後は機能についてですし、使いながら説明していく方がわかりやすいかもです。ですが、最後に一つだけ………一番下の強制展開と強制スタンピードだけは絶対にONにしないでください。もし、ONにしてしまえば重罪人として即逮捕され、少年法とか関係なく刑務所に入れられてしまいますので………。」


 伊吹ちゃんは最後に恐ろしいことを言うのだった。




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無神論者のダンジョン革命~ダメダメな僕は幼馴染に依存する 天上寧子 @yasuhiro0422

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