エピローグ:謙虚な魔王の甘いキス
「カメリアっ」
ジェラルドが悲鳴のような声をあげる。
「行くな。この世界で俺が望むのはお前だけだ。幸せにしたい。そのためにここに来たんだ。あの時の事はすまないと思っている。償いたい、償わせてくれ、今度こそ一生をかけて大切にするから」
「ジェラルド、人生にやり直しなんて無いのよ。一瞬一瞬が一度切り。後戻りなんて出来ない。私達は前に進むしかないのよ」
「……本当に愛しているんだ」
「私は愛していない。もう、別の道を進んでいるわ。あなたも過去に囚われずに進むべき時なのよ。さようなら」
後ろを振り向く瞬間、プライドの高い彼の目から涙が溢れたのか見えた。
でも、もう振り返らない。
レニーはジェラルドに最敬礼すると私とともに歩き出した。
***
「良かったんですか? あんなに冷たく別れて。本当は言うほど嫌では無いですよね」
「本当に嫌よ。全く、ジェラルドが変な時にプロポーズなんてするからこんな流れになって、他のみんなとちゃんとお別れ出来なかったじゃない……最悪」
終わったら仲間たちと慰労の宴でもしようと思っていたのに……とつい愚痴ってしまう私を見てレニーはクスリと笑う。
「確かに……とはいっても努力家ですし、可愛い所もあるじゃないですか」
「友人なら可愛いで済まされるけれど。彼が私に求めるものはそれじゃないでしょ。近くにいてもお互い不幸になるだけ。私がカメリアであるように、彼にはちゃんとジェラルドとして生きて欲しいもの」
「まあ、今となっては僕も黙っている気はないですけれど……でも、カメリア、本当に僕で良いんですか? 相変わらずそれなりに訳アリですよ」
実はレニーの右目は赤いままだ。
魔王の欠片は彼の中で深い眠りについている。
「レニーが良いの」
そう答えると、彼は幸せそうに微笑んだ。
彼に出会った日に、私は恋をして、夢を抱いてここまで来た。
怒りや恨みが魔王を増大させるというならば、レニーには楽しさや喜びを沢山感じてもらって、魔王には心地よく眠ったままで居てもらおう。
私は指を絡めて手を繋いだ。
「……あの……カメリア、例のご褒美なのですけれど、今でも良いですか?」
甘く弾む胸を落ち着かせながら頷くと、レニーは私の額に口づけをひとつ落としてきた。
「……足りないよ」
そう伝えると、耳まで赤くめたレニーは、少しはにかんだ笑顔を見せた。
そして再び唇が下りきた。
私は目を瞑った。
彼の唇は私のそれと甘く重なる。
魔王とキス 碧月 葉 @momobeko
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