仕込み

解体の終わったミノタウロスの肉をギルドから引き取ってきた。


今いるのは、いつも店を出している街の広場だ。

広場は円形状になっており、その中心に噴水がある。

屋台は、広場の外周に沿って並んでいる。

俺の屋台もその中のひとつだ。


まずは、店を広げる。

肉を焼くための鉄板を窯の上におき、いつでも火をつけられるように薪も用意する。



奥の作業台で、解体したミノを一口大の大きさにどんどん切っていく。

余分な筋や脂肪、骨なども丁寧に取り除く。

下味がしっかり入り、肉が縮まないように少しだけ隠し包丁も入れておく。

ここで下味をつけるのだが、いつもの肉なら臭み消しと風味づけにハーブも混ぜる。

今回ミノの肉は、そのままでも充分美味いと思うので、塩を馴染ませるだけにしておく。


肉が落ち着いたら、串にどんどん刺していく。

一串4切れずつだ。これが結構手間がかかる。

ひたすら、心を無にして、串を打ち続ける。

200本程打ったところで今日の仕込みは完了だ。



窯に火を入れ、鉄板を温める。

充分温まったところで試しに一本焼いてみる。

肉の焼けるいい匂いが辺りに充満する。

なんだかいつもより格段にいい匂いがする。

いい感じの焼き色になれば、ひっくり返し反対側も焼いていく。肉汁が溢れすごいジューシーだ。

やばい。腹が鳴る。近くに誰もいなくてよかった。

最初の客は俺自身だ。





あぁ、この味だ。

駆け出しの頃屋台で食べた味だ。

気づけば目から汗が流れていた。







あれから、暴力的に美味そうな匂いに誘われて次々と客がやってきた。

普段より少し高めの値段にも関わらず飛ぶように売れて

用意した200本もあっという間に完売だ。



もちろん、宣伝しておいた知り合いの門番も買いに来た。

他にも、街の外で助けた駆け出しの冒険者や、貴族の護衛、冒険者ギルドの人たちなんかも来てくれた。


その際に、ギルドに行く度に見られているように感じたのは、俺とパーティーを組みたいからだったと教えられた。元パーティーのメンバーたちが言うように無口で無愛想だから気軽に声をかけられなかったらしい。

でも、今日はミノの肉があまりにも美味く勢いで話せたそうだ。




最後に元のパーティーメンバーたちも食べに来てくれた。


「屋台の味が再現できたならまた一緒に冒険しようぜ」だとさ。






今日は目から汗が止まらない日だな。





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異世界の屋台のおっさん~肉串が店に並ぶまで~ アルミ @aluumi

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