1章 友〜後編〜

晴の教室は僕たちの教室から二つ隣だ、帰る為に教室から出てくる生徒達の流れに逆らうように、

僕達は晴の教室に向かう。

教室に着き中を見ると、教壇の所で先生と話す晴を見つけた。


「おーい!晴!」龍が手を挙げながら晴を呼ぶ

「おーお前ら!ほな、先生さようなら!」と

先生に挨拶して晴がこちらに向かってくる

「どないしたん!珍しい!」晴が僕達の前に着くなり聞いてきた。久しぶりにあの場所に行くから一緒に行かないかと話すると晴は気持ちよく承諾してくれた。


前に龍と晴、後ろに優樹と僕が並び下校する。

時折振り向いたりして談笑している姿を見て僕は自然と鳥肌が立った。

晴はまだしも龍と優樹は何故こんな普通に話せる

さっきまで絶交するとか言ってたのに。

僕はそれが不思議で少し怖くも感じた。


相変わらずちんけな公園だ。半分でたタイヤも砂場も誰も使ってないから綺麗なままだ。

僕達は、机に鞄を置きベンチに座る、龍と優樹が横に座り対面に僕と晴が座る、いつもの定位置だ。

少し落ち着いた後、龍がふーっと長い息を吐いて早速本題に入った。


「晴さ、同じクラスに田中って居るだろ?優樹があいつから聞いたんだけど、お前が俺達の悪口言ってたらしいんだけど本当か?」

龍が問いただすその目は怒りに満ちているのが対面に座る僕にも感じてくる。

晴の方をちらっと見ると、驚いた顔をして少し、すると落ちついた顔に戻って

「田中かぁ、俺少し前にあいつと結構派手に喧嘩して、今ごっつ仲悪いねん。だから、悪い嘘を俺の仲良いやつに言いふらしとるんや。」

「俺がお前らの悪口言うわけあるかい!」


相手が僕ならそうなんだ、で済んでた事だろう

でも二人はそうはいかなかったみたいで、

「じゃあ!なんで最近誘ったりしてこないんだよ!!」「どうせどっかでは俺らの事嫌ってたんだろ!!」と捲し立てる龍と

「田中がそんなやつだとは思わない、あいつは凄い良い奴だから、今の晴の言ってる事はその場しのぎの言い訳じゃないの?」と田中を庇うように言う優樹。


「そりゃ!新しいクラスに馴染むためにクラスのやつと仲良くするんは当然やろ!お前らかって誘ってこんかったやんけ!」それにな!と続け

「優樹!お前や!なんで小学校からの付き合いの俺の言葉に対してそれであいつの事そんな信用してんねん!だから優しくされた龍に着いていくだけの男になるんちゃうか!」


どっちの意見も分からなくもないが、晴の今の言葉はいただけないな、それは関係ない所であって、今陰口では無いにしろ悪口言ったのと同じだ。

「晴、それは」と注意しようとしたところ

龍が立ち上がって晴の方に向かい、晴の胸倉を掴みながら

「お前!今優樹になんてこと言った!謝れよ!!」と怒鳴り散らかした。


静かな公園に龍と晴が大きい声で怒鳴り合ってる

そろそろやばいなと思った時、龍が一度落ち着いて晴の胸倉を離して机に置いた鞄を持ち

「もういいよ、お前二度と俺らに関わるなよ。」優樹行くぞ。と龍が優樹を呼んで立ち去ろうとする。


龍がこちらを振り向いて「さっきから、黙って聞いてたみたいだけどお前はどうする?」と僕に聞いてきた。おいおい、さっき注意しようとしたの遮ったの君だろと思いながらも直ぐに

「いや、俺は晴の言葉を信じるよ、晴が優樹に言ったことは確かに酷いけど、俺田中って話したこともないし正直信用出来ないから、晴とは長い付き合いだし嘘つかないと思うから、信用しないお前達にも思うところあるし。」と応えると

「あーそうかい、じゃあお前ももう関わるなよ」と言って2人は公園を去っていった。


ふぅー。終わった。と思い晴を見ると

なんと晴は涙を流しながらこちらを向いていた。

「信用してくれてありがとうなぁ。でもどうしよ、俺優樹にめちゃくちゃ酷い事言うてもうた。龍にもめちゃくちゃ怒鳴ってもうた。どうしよ、俺この四人が好きやのに。」


分かるよ。と肩をポンポンっと叩きながら

「悪いと思ったならちゃんと謝ればいい。アイツらも頭に血が登っただけなんだ。ちゃんと話せばわかるし。晴の言ってることも伝わるよ。」と慰めながら二人で公園を出た。



僕は、自分が心底嫌いになりそうだった。


僕は晴が本当の事を言ってることを知っていた

昼間二人を避けるようにトイレに行った時、晴とは違う小学校からの友達で晴と同じクラスのやつからこんな事を言われていた。

「お前らがクラス離れて、めちゃくちゃ言ってたぞ俺も行きたかった!とか今からでも遅くない!とかほんと好きなんだなお前達の事。」


僕は、それを聞いて二人に言おうと思った。

しかし、その気持ちと同じ、いやそれ以上にこの四人の硬く結ばれた絆がどれくらいキツく結ばれているのか、些細な綻びで心が移り変わるのかという事に物凄く興味を持ってしまった。

だからこそ、晴を呼びに行く時も、四人で帰る時も、足取りが軽くなる自分がいた。


だから、僕はその場で口に出すことは無かった。三人には申し訳ないと言う気持ちはあるが、たとえ四人の結果がどうなったとしても、僕にはこれが何かを得る良い機会だと思ったからだ。


晴と分かれて家に着くと、「ただいま」と言って直ぐに部屋に向かいチャットアプリを開く。

龍と優樹に個別で、『言い過ぎた、ごめん。』という謝罪と、トイレでの出来事を宛かもさっき起きたかのように話した。晴が泣きながら言ってたことも送った。


さっき、起きたことの辻褄合わせもあるが自分自身の免罪符でもあった。

既に知っていた事を三人に知られてしまったら

と思った僕の卑怯な部分が出てしまい、嘘をついた。


お風呂やご飯を済ませ、自分の部屋に戻り勉強しようとした時、スマホを見ると二人から連絡が来ていた。二人とも冷静になったのか晴に謝る連絡を送ったこと、また四人で遊びたい旨が届いた。

その後、晴から電話がかかってきた。

「仲直りしたで!ほんまありがとうな!明日、四人で登校するって話になったから、朝から三人で迎えに行くわ!」と先程までの涙が嘘かのように嬉しそうな晴の声が聞こえた。

「仲直り出来てよかった!じゃあまた明日待ってるよ!」そう答えて電話を切った。


結果的に仲直り出来て良かったが、僕は自分の性格の悪さと嘘ついて逃げた事による卑怯な部分、

そして、祖父が言っていたことが更に理解するに至る経験を出来たことに対する気持ちが重なって、複雑な心境のまま眠りについた。



朝、学校に行く準備が終えてピンポーンとインターホンがなった。「行ってきまーす」と外に出ると、そこには笑顔で「おはよう!」と言う三人が立っていた。昨日まであれだけ喧嘩していた三人が笑顔で並んでいるのを見て、複雑な気持ちが少しでも和らいで行くのを僕は感じた。


「おはよう」

僕はそう返して、四人全員が軽い足取りで学校に向かった。

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