物言わぬ絶望

 ああ人々よ、あなた方は、青春時代の痕跡を思い返してうれしく思いながら、そしてそれが終わってしまったことを心残りに思いながら、その青春時代の夜明けを記憶している。けれども私は、釈放された元囚人が、監獄の壁と枷の重さを思い出すのと同じように、その青春時代というものを思い出す。あなた方は、子ども時代と青年期の間に横たわるあの年月を「黄金時代」と呼ぶ。その「黄金時代」は、逆境や悩み事をも、そんなものはへっちゃらだと言って笑い、まるで蜂が毒気を放つ沼沢しょうたくの上を飛び越えて花盛りの庭園へ飛んでいくかのように、悩みや憂いの上を飛んでいく。だが私は、少年期というものを、沈黙の隠れた痛みの時代としか呼ぶことができない。その密かな痛みは、私の心の中に巣くうていて、心のあらゆる場所で嵐のように暴れ回り、増長に増長を重ね、その数を増やしていた。私の心の中に、愛が入り込み、心の扉を開け、心の隅々まで明るく照らしてくれるようになるまで、逃げ道は見つからなかった。愛が私の舌を解き放ってくれたので、私はようやく語ることができた。愛が私のまぶたを切り開いてくれたので、私はようやく泣くことができた。

 ああ人々よ、あなた方が遊んでいるさまを見て、あなた方の貞節なささやきを聞いていた野原や庭、街路を思い出す。そして私もまた、北レバノンの風光明媚な場所のことを思い出す。魔法と畏怖に満ちたあれらの渓谷を、そして至高へと向かう荘厳さと華々しさによって気高くそびえているあれらの山々を見るときはいつでも、その周りの景色に目がくらんだものだった。音のけたたましさに両耳をふさいでも、それでも常に、あれらの小川がさらさら流れる音や、枝々がざわざわ鳴る音を、私は耳にしたものだった。だが今私が追憶し、乳児が自分の母親の腕を求めるかのように切に希求しているああいった感覚は、それこそが、青年期の闇の中に捕らえられている私の魂を責め苛んでいたものに他ならなかった。あたかも一匹のハヤブサが、他の仲間たちのむれが広漠たる大空を自由に泳いでいるというのに、それを見ながら自分だけ檻の格子のあいだで拷問されているかのように。そしてああいった感覚は、それこそが瞑想の痛みと思索の苦しみで私の胸を満たし、私の心の周囲で混乱と迷妄の指で、絶望と諦念を材料にベールを織っていたものに他ならなかった。私が砂漠に行ったときはいつでも、失意のうちに帰って来るのが常であった。その失意の理由も分からないまま。夕方になって太陽が放つ光線に彩られた雲を見たときはいつでも、すさまじいまでに胸を締め付けられるような感覚を覚えるのだった。その締め付けられる感覚の意味も分からないまま。ツグミのさえずりや小川が歌う歌を耳にしたときはいつでも、私は立ち止まったものだった。何がその悲しみを引き起こしているかも分からないまま。

 人々は言う、愚かさは空白の始まりであり、空白というのは休息するための寝床であると。死人として生まれて、土の上で冷たく生気のない屍のように生きているような人々にとってはそうなのだろう。けれどもそんな盲目の愚かさが、もし覚醒している愛情の近くに巣くっていたならば、その愚かさは地獄よりも苛烈で、死よりも苦いものとなるであろう。多感だが物事への知識に乏しい繊細な少年は、太陽のおもてをいちばん渇望している被造物である。なぜなら、彼の魂は、相異なる恐るべきふたつの力の間に挟まれてたたずんでいるからである。それらふたつの力というのは、ひとつは、雲の中そして少年の周りを飛び回り、夢にかかっているもやかすみの背後から、この世界の素晴らしさを少年に見せてくれる隠れた力。そしてもうひとつは、少年を大地に縛り付け、砂嵐で視界を眩ませ、真っ暗な闇のなかで彼を恐れさせ、寄る辺ない状態にさせる、はっきりと現れている力である。

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折れた翼 ねくたりん @Nektarin

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