鍵はどこ?

藤野 悠人

鍵はどこ?

『えー、お前あの子と別れたのー?』

「うん、別れた別れた」


 清々せいせいしたと言わんばかりの顔で、男は電話越しの友人に話していた。


『なんでだよ、結構かわいい感じの子だったじゃん』

「いや、なんかさ。最初は可愛い子だし、いい感じだなーって思ったんだけど、しばらく付き合ってみたら、なんかちょっと……実はヤバいなって」


 男の部屋にある鳥かごがカタカタと揺れる。ペットのインコが、籠の中で止まり木をジャンプしたのだ。電話の向こうから、友人が話しかける。


『あぁ、そういえば言ってたな。友達と会うのも嫌がり出して、別れる直前は飲んでる薬の写真まで送って来たんだっけ』

「そうなんだよ。おまけに、俺が飼ってるインコにまで文句言い始めてさ。さすがに付き合いきれねーと思って、この前振った」


 籠の中で、黄色いインコが声を出す。


「ドコ? ドコ?」


 その時、玄関の方でチャイムが鳴った。男は怪訝そうな顔をする。

「なぁ、夜中の10時に、どこぞのテレビの会社が来ることってあったっけ」

『あぁ、たまにあるらしいけど。なに、チャイム鳴ったの?』


 もう一度チャイム。


「まぁ、別にいいや。居留守決め込むわ」


 男がそう言った直後、インコがまた泣いた。

「カギハドコ、カギハドコ」

「うちのインコ、変な言葉覚えてる」


 男は笑いながら友人に話す。


『なんて言ってるんだ?』

「鍵はどこ、だってさ。俺、鍵なくしたことないのになぁ」

「アッタ、アッタ」


 インコの声を聞いた瞬間、男はハッと気付いた。スマートフォンを持ったまま、急いで机の引き出しを開ける。入居した時、スペアキーはふたつ渡された。それがひとつ、無くなっている。先日まで交際していた女性には渡していないのに。思わず息が止まった。


 カチャ、と。玄関の鍵が開く音が聴こえた。

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鍵はどこ? 藤野 悠人 @sugar_san010

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