第12話 空は晴れて
私は、投了の宣言と同時にフーッと小さなため息をついた。その時に、美冬が私に尋ねてくる。
「感想戦……やる?」
「いらない。そんな……気分じゃない…………」
私は、即答した。今まで何度も負けることがあったが、普段の負けた時の100倍以上……悔しい……!
私の瞳から、涙が流れそうだった。
「ごめんね、夏織。今日は、これで帰るね」
美冬は、駒を駒箱の中へ収めていった。勝ったのに、どうして謝るのよ……私は、美冬の動作をただボーッと眺めていた……しかし、彼女が立ち上がった瞬間、私もその動きにつられるようにしてパッと立ち上がった。そして、大きな声で叫ぶ。
「途中まで送っていくよ!」
私が美冬と一緒に家を出ると、既に雨は止んだ状態であり、雲のすき間から青空がのぞき始めていた。私は勝負に夢中だったから、雨が止んだことすら全然気がつかなかった。
「ごめん、夏織。私、勝ったけど……告白するのが、やっぱり怖い…………」
美冬が、小さな声で呟いた。しかも、今にも泣きそうな弱々しい声だった…………ちょっと……その態度は無いでしょ……泣きたい気分は、私の方にあるよ…………。
「元気を出しなよ! 私に勝ったでしょ!? 胸を張って堂々と告白しなさいよ!」
私は、そう言って美冬の背中をバーンと強めに叩いた。正直に言うと、これくらいしか彼女を励ます方法が思い浮かばない。私は、本当に不器用な女子だった。
「い、痛いってば……私、葉山先輩に振られちゃうかもしれないし…………」
「私と指した将棋みたいに、思いっきり全力でぶつかって来なさい! もし、玉砕してしまったら、私が慰めてあげるから!」
あ~あ……本当は、このようなことを言いたくないのに…………私は、最後の最後で非情になりきることができないお人好しだなあ…………。
「ありがとう、夏織! 私、頑張ってみる!」
美冬は、ようやく笑顔を見せてガッツポーズを取った。
「そうだよ! そして、ちゃんと結果は教えなさいよ?」
「うん! 私、もう怖くない! また明日、学校で会おうね!」
彼女は、そう言って手を振りながら走って行った。
私は、最後にすっかり晴れた空を見上げて呟いた。
「頑張れ、美冬。頑張れ、私…………!」
※ このストーリーは、今回で完結となります。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
もし、皆様のリクエストがありましたら、
続編を書いていくことも考えております。
女流棋士までの恋 宗谷ソヤナー @souyasoyana
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