カッコよくなりたい少年と恋を知らない少女は、種族の垣根を越えられるか

吸血鬼と人間が共存する世界の、少年少女の成長物語です。
ジャンルとしては恋愛ですが、メインテーマは二人それぞれの成長だと感じました。

本作のヒーローである伊織は吸血鬼。今や学園の王子様的存在ですが、本当は気弱で怖がりで人に言えない過去を抱えています。
そんな彼の憧れこそ、主人公・瑠璃。強くて真っ直ぐでカッコいい女の子なのです。

瑠璃に似合う男になるため奮闘する伊織が、とても愛おしい。
彼と仲良くしたことで嫌がらせを受ける瑠璃が、それらを自力で跳ね除ける強さが頼もしい。
きちんと互いの気持ちに向き合っていく二人ですが、伊織が吸血鬼であることで、とある試練が訪れます。

人は誰しも、好きな相手に見せたい自分、隠したい自分、思い出したくもない過去があるものです。
生まれや特性、身体的特徴など自分ではどうしようもないもののせいで思わぬ問題にぶつかることだってあります。

本作は、伊織を取り巻く困難を、彼が瑠璃の力を借りながら、自力で乗り越えていく物語です。
瑠璃の心を動かしたのが伊織の優しさであることも、忘れてはなりません。この二人が、一緒に成長していくお話なのです。

優しくて温かで、勇気の湧いてくるような物語。児童書になってほしい作品です!

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