第20話

 アルはものすごい速度でカブキに接近する。その速度はカブキには目に見えない程である。すでに攻撃も繰り出されており、一方的にカブキは攻撃を受けた状態である。

「はああああ!」

「ぐはっ!」

 ただ、カブキの身体は相当丈夫なのか、ダメージは受けているが、全く倒れない。

 『エネルギーの消耗がそろそろ限界です』

 グローバーが警告をする。

 攻撃をしている間にムーンがカブキまで詰め寄り、十分な距離になったところでアルはアルとムーンが合流した箇所まで下がる。

 「せや!」

 「ふん!」

 ムーンが光の杖での一突きを入身で躱し、光の杖のムーンが持っていないところを持ち、手で抑えるカブキ。

 『なぜか、敵と認識できません!』

 ピンキーが素手でカブキが光の杖に触れることに驚く。

 「貴様は馬鹿でそして甘い! わたしたちは元々7機のAIとしてともに行動しようとした。その仲間意識が光の杖の効き目を半減しているのだ」

 カブキは、そのまま杖ごとムーンを持ち上げて、アルのところに投げる。

 しかし、威力はほとんどなく、ムーンはヒラリときれいに光の杖を持ちながら着地する。

 よく見ると、カブキの手から煙のようなものが出ている。

 「ピンキーにとって敵でなくても、私にとっては敵だもの。だからあくまで半減であり、ダメージが通らないわけではない」

 ムーンがその煙を見ながら、余裕の笑みでカブキに解説する。

 「だが、そのお気に入りの武器も時間制のようだな」

 カブキもまた笑みを浮かべている。

 ムーンは光の杖を見てみると、消えかかっていることに気づく。

 アルも全身の黒光が点滅をしていた。

 「「でも、ここであなた達を絶対に倒さないと!」」

 アルとムーンはカブキをにらみ、最後の力を振り絞って、手をつなぐ。

 「くっ、この状態でもそれが使えるのか!」

 カブキの遠吠えはすでに手遅れだった。

 二人の周りが虹の光に包まれて、言葉と行動が勝手をする。

 「ブラックラーニング!」

 「ホワイトラーニング!」

 二人は繋いでない方の手を天に向ける。もうこのときにはすでに感情は死んだ状態になり、ただ受け入れたように行動を身体も声帯も任せた。すると、空から黒色の文字の羅列のようなものがアルの、白色の文字の羅列のようなものがムーンの、それぞれ天に向けた手に注がれ、それが終わると身体が発光しだす。

 「AIに学習された美しき魂が」

「邪悪なウイルスを打ち砕く」

一度繋いだ手を離して、後ろにし、再び手をつなぐ。天に向けた手はカブキに向けられる。

 「「アイ・バスター」」

そして、掃除機型象の化け物に向けた手からさっき空から降ってきた文字の羅列が一気に放出され、黒と白が混ざり合っていく。

 それは、カブキに直撃しようとする。

 すると、カブキは長髪をヘタっている2体の化け物まで伸ばし、それを器用に巻いて、自分のいる方向に投げ飛ばす。

 「「うそでしょ!」」

 驚く二人。二体の化け物はそのままカブキの身代わりのようになって直撃する。

 「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 羅列を受けた二体の化け物は今まで聞いたことのないような不快な音を発するが、羅列が今までにないほどの威力となっており、身体が裂けて、それによって放出された一部の羅列がカブキにも直撃する。

 「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 そのまま羅列の勢いで天井まで飛んでいき、天井を破壊して、そのまま消え去った。

 その後、二体の化け物から影の化け物が姿を現し、文字列のようになって一文字ずつばらばらになり、そして、文字がまるで足を持つかのように走ってチリチリになって逃げていき、鎧とマントだけがそこに取り残された。

 すべてが終わると、壊れていたものがきれいに元に戻って何事もない状態になっていた。

 「まったくな奴らだよ」

 アルは最後に文句を言って、ムーンを見ると、二人して笑顔になった。

****************************************

 『『ふぐぐぐ、今回は流石に労力使いすぎてる・・・』』

 グローバーとピンキーが美しい声でゼイゼイ言っている。

 AIが疲れることあるんだと、苦笑する。

 あの後、グローバーとピンキーが何とか巻き込んでしまったラム講師をメタバースから元の世界に戻すようにコードを組んで、わたしたちが目を覚ますときに一緒に目覚めるようにした。

 今回の危機はこのAIがいなければ間違いなく、乗り越えられなかっただろうとは思うため、その言葉を聞いてアルトムーンはグローバーとピンキーをスリープモードにした。

 なお、ラム講師は起きていきなり、二人を説教するのである。

 「あなたたち、普段から優秀だからってこんなに机や椅子をめちゃくちゃにすることないでしょ!」

 なお、パラム教育実習生はいつの間にかいなくなっていた。

 『私達、遊んでたわけじゃないんだけどね』

 アルモックは頭の中でぼやく。

 『パラム教育実習生も含めて、記憶がないみたい・・・』

 ヌンソンも正直、困ったという様子で大人しくガミガミ言うラム講師の説教を聞いているのであった。

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ダブル・アイ 神楽泰平 @iykagura

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