友達止まりだった俺が、お嬢様学級委員長を修学旅行で押し倒して告白した

紅島涼秋

友達止まりで悔しくて

 高校三年生の春、修学旅行、俺はいつだって狙っていた。亜麻色の長髪に髪先が大きくロールで巻かれた、顔の整った美少女。

 俺のクラスの学級委員長をしているお嬢様の寝屋川ねやかわ稜夏りょうかと一緒に修学旅行を楽しむチャンスが欲しかった。


「委員長、偶然だね! どうだろう、一緒に館内を回らない?」

「あら、忍ヶ丘しのぶがおかさんまたですのね。珍しいところを選んだと思っていたのですけれど、被るなんて驚きましたわ。残念ですが、私もグループがありますので、そちらと一緒に回りますの。忍ヶ丘しのぶがおかさんもグループの人と回らないとダメですのよ? それではまた」

「そうなんだ、残念、それじゃあまた」


 今日だけで二回、昨日は三回、偶然という名の必然で顔を合わせて声をかけ続け撃沈して、俺の周りを同じグループの男女がニヤニヤしながら肩を叩いた。

 男子はスポーツマンな見た目をした秋山と、女子も陸上部らしい日焼けをした大森だ。

 何度も何度も俺の肩をバシバシと交互に叩いてくる。ゲラゲラ笑っているのが腹ただしい。


「あっははは、もうこんだけ準備して、五回も撃沈してるんだから諦めなよ。いつもはお硬い感じなのに、修学旅行は普通におもしろいところ選んでると思ったらさぁ」

「ストーカーだよもうストーカー」

「ストーカーじゃない! 決して! プライベートはデートを許可してもらった時以外に絶対に踏み込んでない」

「デートは行ってるんだよなぁ」

「デートって言ってるの忍ヶ丘しのぶがおかだけで、寝屋川ねやかわちゃんはデートだって思ってないから、今日も断られているんでしょ、ぷっ」


 秋山が同情した顔をしたすぐに大森がそんな事をいって否定してくる。そんなからかいを否定できない現実が辛い。


「なぜ、どうしてこんなにも上手く、行かないんだ!」

「はいはい、忍ヶ丘しのぶがおか、館内ではお静かに~」


 寝屋川ねやかわにこっそりこんな所もあるんだぜと提案して、寝屋川ねやかわの所属するグループの女子から、そこ行くんだよという密告を元にガッツポーズをしながら来たというのに。

 俺は情けない。一世一代のチャンスなのに、好きな人と修学旅行を回れない。なんて悲しいんだ。

 おいおい泣きながら、俺の気持ちを無視しイチャイチャしながら館内を巡る秋山と大森の後ろを、俺は恨み嫉みで濃くなる背後霊のようにノソノソついて回った。


「これなに~?」

「いやー、俺もわっかんねーわ」

「だよねーあっはははは! これ変なのー」

「なんだよこれ、ぐはははは」


 それはな……と頭の中で展示物の説明がつらつら滝のように流れていく。寝屋川ねやかわに説明するために必死に覚えたのに、俺の修学旅行のために覚えた知識は何の成果も発揮せずに埋もれていった。


「ちくしょう。目の前のバカップルみたいに、修学旅行デートしてぇよ。何のための修学旅行だよ」

「ぷぷっ。男の嫉妬は情けないなぁ! そんなに言うなら、初めから同じグループに入れてもらえばよかったじゃん、ぷぷっ。ヘタレには無理かな」

「ヘタレじゃない! 誘ったらもういつもの取り巻きと一緒のグループ作っちゃったんです、ごめんなさいされただけだ!」

「くく、それが、もう脈なしなのに」

「みゃ、脈はある。ほら、今も俺の手首に流れてる」

「お前の脈なんてどうでもいいんだよ! 修学旅行中なのに毎回断られたら、成仏できない背後霊で俺たちの背後をつきまといやがって」

「ひでぇぇ、バカップルがひどい」

「バカップルについてくる男が何を言ってるのよ。もうねぇ?」

「そうだそうだ。カップル認定ちゃんとしてるなら、俺らを放置しろ」

「ぼっちは嫌だ~~~~」


 やいのやいの会話しながら、結局修学旅行二日目も何の成果もあげられず、俺はホテルに帰る。夕食も終わり明日にはグループ行動は無く、全体行動があるだけ。もう修学旅行は無いんだ。

 もう修学旅行デートをするチャンスがない現実を自覚した俺は、部屋でしくしく泣いていた。

 同じ部屋の秋山が、そんな情けない俺にうっとうしいぞとケリを入れてくる。


「バカップルの片割れが、俺の扱いが酷い」

「もうお前の修学旅行は終わったんだ、諦めろ」

「ぢぐじょおおおお。秋山と大森みたいに、じゅうがくりょこうでーどしだじゃった」

「あーもう、ホントお前はさぁ」


 そんな事をしている俺たちの元に、大森が部屋へやってくる。寝屋川ねやかわと同室を勝ち取った忌むべき友人である。許されるはずがない。いや、許すけど。


「ねえねえ、忍ヶ丘しのぶがおか寝屋川ねやかわちゃんお呼び出しされちゃったよ?」

「およびだじ?」

「うわ! どんだけ泣いてんのよ、ぶっさいくだね」

「びでぇ」


 俺はタオルで顔をしっかり拭いてから大森に顔を向ける。


寝屋川ねやかわちゃん、隣のクラスの男子に告白で呼び出されたんだよ! あんた、見に行かなくていいの?」

「行く! どこ!」


 飛び起き場所を聞いた。俺はすぐさま、顔を洗い、服を整え。


「いや、とっとと行けよ」

「バカ! 寝屋川ねやかわに見られた時にどうすんだよ!」

「……忍ヶ丘しのぶがおかって逞しいわ」


 秋山と大森に馬鹿にされたが無視し,俺は大森に教えてもらった場所へ走った。本当に居た! 俺は木陰に隠れて様子を伺う。もう告白された後のようだったが、男子は寝屋川ねやかわの答えを待っているようだった。……嘘だ。なんでそんな溜めるんだ。即拒否じゃないのか。

 今まで、俺含めた男子達には即、ごめんなさい、お友達で居ましょうだったのに。

 そうして、天使のような声が回答を発する。


「その、お付き合いはできません。お友達から」

「あははは、そうだよね」


 男子はがっくり来ているが、俺は信じられなかった。だっていつもはお友達で居ましょう、って言って断るじゃないか! お友達からって、まるで将来付き合う前提みたいな物言いだ。

 俺はあまりのショックに倒れ込みそうになった。

 そこからはあまり覚えていない。

 さっさとホテルへ戻る寝屋川ねやかわに見つからないように、俺も自分の宿泊部屋へ戻って、また泣いた。


「ぢぎゅじょおお、どうじでだよ」

「あーあ、またこうなったよ」

「もう、あんた、いい加減踏ん切りつけるために、もう一回告白してきたら?」

「ゔゔ、踏ん切り?」

「一年生の時に告って、それから告白もせずに仲良し友達大作戦してきたからズルズル引きずるのよ。いい加減一発振られてこいっての」

「ひでぇぇぇぇ。どこで告白しろって言うんだよ」

「私がこっちに来てるんだから、寝屋川ねやかわちゃんが一人なんだし、今行けよ」


 俺はしばらくウンウン悩んでうなりたかったが、秋山と大森が俺を部屋から放り出して、


「俺たちはイチャつくからしばらく戻ってくるなよな」

「はへ?」

「じゃーねー」


 不健全だ! 不純異性交遊だ! 俺だってしてえよ。なんでだよ! ぢぐじょおおおおお。

 心の叫びをホテルの廊下だから我慢して、俺は幽鬼のようにフラフラ歩き、寝屋川ねやかわの部屋へ向かう。もう大森に言われた通り、ぶつかって振られて、一晩どっかで泣こうと思ったからだ。俺には野宿がお似合いだ。恋人同士がいちゃついた後の部屋で、振られたやつが就寝できるわけがないだろ!


 部屋の前にたどり着く。扉の前で深呼吸をして、俺は勇気を出してノックする。

 コンコン。

 俺の気持ちとは裏腹にノックの音はひどく軽やかだった。

 扉はわずかに開けられって、隙間から少女が顔をのぞかせる。食事の時もしっかり見た髪先を巻いたお嬢様ヘヤーが隙間からものぞいて美しい。


「あら、こんばんは、忍ヶ丘しのぶがおかさん?」

「こんばんは、寝屋川ねやかわ、話がしたいんだけど良いかな?」

「あっ、もちろん良いですわ。どうぞ?」


 にこやかに俺を招き入れる少女に嬉しくなって、扉をくぐり抜け入る。すぐに扉が閉められて、俺は顔が赤くなった。寝屋川ねやかわが背中を向けて、おずおずとツインルームの窓側のベッドに腰掛ける。穏やかな笑みは日頃見かける温和な表情で、いつもの寝屋川ねやかわらしさを感じた。

 だが、彼女の着ているものが。

 透けてはいない。しかし、パジャマというには薄手で蠱惑的なナイトウェア、俗に言うベビードールを美人が着るとこんなに破壊力があるのか。俺は顔を真赤にしながら、視線をなるべく彼女の身体に向けないようにした。


「どうかしまして? お話するのであれば、隣へどうぞ?」

「いや、もう、着替えてるんだ、ね?」

「ああ、お恥ずかしいですわ。私、いつも寝るのが早くて、」


 良かったのかな。告白で撃沈するつもりだったが、俺は彼女がもう一度隣へどうぞと言うので、大人しく少し離れて座った。

 いい匂いが隣の少女からしてくる。

 今更気づいたが女子がいる部屋ってこんな良い匂いがするのか。同じホテルの部屋に泊まっているのに、そんな事を思ってしまう。


「それで、どうかしたんですか?」

「いや、……そういえば、今日の博物館の展示、どうだった?」

「ああ! あれはとても良かったっですわね、特に」


 彼女が嬉しそうに話してくれる。クスクスと口元に手を当てる姿も可愛い。

 鎖骨のラインもとても綺麗だ。

 しばらく修学旅行の話をしてから、俺はつい、ぼやくように言ってしまった。


「そういえば、さっき、告白されてた、ね?」

「まあ、やっぱり見られてしまいました? 人の居ないところと言われたのに、人が通りそうな場所だと思ってましたの。恥ずかしいですわね」

「……あ、の男子とお友達から?」

「ええ、どうやら同じ大学を志望していますし、無下にするのもいけませんものね」


 優しげに言う寝屋川ねやかわの言葉に、俺はその男子に嫉妬した。どうしてだよ。俺はお友達どまりなのに。

 二人きりの部屋。

 俺が気づかない内につい彼女の方へ動いてしまったのか、肌と肌が触れ合う距離で座っていた。どうしてだよ! くそ! こんなに好きなのに! 毎週日曜日にお出かけしてても、なんで俺はお友達なんだよ!

 あいつはお友達からで将来の恋人候補なのに俺は友達止まり! ちくしょう、悔しい。悔しすぎる。


「どうかしましたか?」


 俺を心配そうに覗き込んで俺の手首を心配そうになでる少女を、俺は我慢できずにベッドに押し倒す。

 ぐんと倒れ込む瞬間に彼女の身体に密着するように、ベッドに向かって手首を起点に身体が引っ張られた気がした。重力さえ、俺に彼女を押せと言ってくるらしい。


「きゃっ」


 先程まで綺麗に閉じられていた彼女の足が寝転ぶ際に、偶然にも開かれて仰向けになっている。仰向けの彼女の足の間に、俺の身体が自然と入り込んで密着しながら、彼女の両手をそれぞれ俺の手が恋人つなぎのように握って抑え込んだ。

 亜麻色の髪がベッドに広がる。少女がその綺麗な目で俺を見上げていた。

 ずっと抑えてたのに、こんな密着したら、もう何も我慢できるはずがない。

 薄い布越しの彼女の体温が伝わってきて、俺の心臓をどんどんと早めさせていった。


寝屋川ねやかわ、いや、稜夏りょうか!」

「はいっ」

「俺はこんなに君の事が好きなのに、君のことが好きだ」

「ああ、ダメですわ。忍ヶ丘しのぶがおかさん、賢治さん。私達、まだお友達なのに」


 俺がいつの間にか興奮で密着するように近づいてしてしまったのか、ぐぐっと身体が触れ合う面積がさらに増えてしまう。ダメよという稜夏りょうかの言葉が辛かった。あの男子はきっと将来許されるのに、俺にはそんな未来が無いんだ。悔しかった。


「ちくしょう! 俺はダメで、さっき告白した男子なら良いのか」

「そんな、賢治さん、ダメですわ。こんな、男女で密着してしまうなんて」

「修学旅行で二人きりでデートしたかった! なのに、ちくしょう! グループなんて抜け出してよ! なんでしてくれないんだ」

「ごめんなさい、賢治さん、ごめんなさい。賢治さんに応えられなくてごめんなさい」


 ごめんなさいと俺に媚びるように謝る彼女の声に、どんどんと暗い気持ちが高ぶっていく。手籠めにしたい。いつもは毅然とした態度の彼女がこんなにも俺に抵抗も出来ず謝ってくる。


「許せないよ! 俺はずっとこんなに好きなのに。そんな薄着で、同級生だからって油断して男を部屋に入れて!! ベッドの上で男にあっさり抑え込まれるんだよ。そんな油断して! そうして、押し倒されたままキスされるんだ。他の男が来たら、ちくしょう。そんなの絶対許さないからな!

 好き、好きだ。こんなに好きだ。なのに、あんな男子に。好きだ、稜夏りょうか、こんなに好きなのに」

「ダメ、ダメです。キスなんて、私、初めてですの」


 初めてと言われて、稜夏の唇に視線が吸い寄せられる。ぷっくりとした桜色の唇がつやつやと輝いているように見えた。キスがしたい。俺は彼女の唇が発する誘惑にクラクラさせられた。

 俺は抑えこんで動けない稜夏りょうかにゆっくりと顔を近づける。彼女は抵抗を諦めるように俺の手を握ってくる。そんな柔らかな手が動かないように俺も自然とギュッと握った。

 俺の背中に彼女は自身の足を力なく置いて、俺が顔を近づけると背けることもせず、俺をじっと見ていた。

 ちくしょう。こんな可愛い子が、毎週デートしてるつもりだった好きな子が、誰かの物になるなんて、嫉妬で狂ってしまう。


「んぅ」


 稜夏りょうかの唇に触れると、彼女はそんな声を出した。柔らかい唇が触れて、俺は心臓の鼓動がさらに早まっていく。やってしまった。だけど、もう我慢出来なかった。彼女が悪いんだ。

 俺がこんなに好きなのに。

 一度唇を離す。ほぅっと稜夏りょうかが熱っぽいため息を吐き出した。


「ファーストキスでしたの。キスだなんて、いけませんわ賢治さん」

「俺だって初めてだった。俺が君の初めだ!! だから、もう君は俺と何回キスしたって一緒だよ! 何回でもするから! 君の唇は俺のものなんだ。絶対誰にも渡さないんだ」


 チュッ。チュッ。と何度もキスを繰り返す。

 稜夏りょうかは嫌なのか俺の動きを抑え込んで抵抗をしたいのか、ガシッと俺の腰を彼女の足でホールドしてくる。腰から下の密着が更に強くなった。

 抵抗するなんて、そんなに嫌なのか!? 俺はこんなに好きなのに、君の唇が柔らかくて気持ちが良くて、君にだってキスを気持ちいいと思ってもらいたいのに、君はそんなに嫌なのか。

 俺は目の前の唇に何度も吸い付いて、徐々に広がる唇の中に、誘惑に負けて舌を差し込んでいく。

 濡れた舌が俺の舌と絡みついて、あまりの気持ちよさに震えてしまう。

 だが、稜夏りょうかは俺の舌を拒否したいのか、激しく俺の舌を押し返そうとするかのようにと強く絡まってくる。俺は気持ちよさと、彼女が俺を拒むような強さへの悔しさで、ぐるぐると濁って混ざりあった無茶苦茶な気持ちが高ぶっていった。

 こんなに好きなのに、分かってもらえないなんて。

 唇を離す。

 舌と舌が、最後まで絡み合って、一番最後に離れていった。すぅっと透き通った糸が細くなり、ちぎれて彼女の舌の上に落ちていく。それをぺろりと彼女が口の中で舐めていた。

 顔を真赤にする彼女が可愛い。だが、彼女は俺をお友達として扱い、恋人にはしないんだ。

 悔しくて、他の男に取られたくなくて。


「キスも初めて。だったら、もう全部、稜夏りょうか、君の全部を貰う。どんなに抵抗されたって、許さない」

「ダメ、ダメですわ賢治さん。こんな私が抵抗出来ないからって、無理矢理にキス以上なんて。私達にはまだ早くて」


 まだそんな風に抵抗する彼女に悔しくなった。受け入れてほしかった。準備を終える。

 もしもこれから彼女の抵抗で邪魔されたらいけないと、彼女の抵抗を抑えるために、両手をもう一度恋人繋ぎのようにして抑えこむ。


「全部って言った! 君の全部を絶対他の男なんかに渡してたまるか!」


 彼女と向き合って、俺は顔を羞恥で真っ赤にした稜夏りょうかにキスをして、告げた。


稜夏りょうか好きだ。入れるよ」

「ああ、ダメですわ。おやめになって」


 誘うような甘い声だが、ここまでしても拒否されるなんて。好きだと言ってほしかった。俺は悔しくって、その熱がさらに俺を激しく動かした。

 その日の夜、俺は寝屋川ねやかわ稜夏りょうかの部屋から出なかった。大森も秋山の部屋に一晩いたのか、戻っても来なかった。




 朝、俺は目を覚ます。散々弄んだ少女が俺の腕の中で眠っていた。

 亜麻色の髪を撫でる。

 悔しかった。目が覚めたのかゆっくりと稜夏りょうかの目が開く。俺を見つめて、微笑を浮かべた。


「おはようございます」

「おはよう。稜夏りょうか。……俺は君が好きだ」

「……うふっ。とと、ああ、いけませんわ。賢治さん、時間が。まだ朝食までこんなに時間があるからって、私を襲うんですの。お友達でダメですのに」

「なんでだよ! あれだけしたのにまだダメなんて、こんなに好きなのに」


 彼女が俺の肌を撫でる。あれだけ受け入れてくれたと思ったのに、起きたらまた拒否されるんだ! 俺はそんな悔しさに彼女へ襲いかかった。早く起きてよかった。彼女は諦めたように俺を受け入れる。

 その後、一人ずつ入るには時間が無いからと二人で風呂に入った。



 稜夏がゆっくりと制服を着替えている。俺が視線をそらそうとすると、声を掛けて汚れていませんか? と確認を何度もしてくるのだ。

 だけど、好きな子が目の前で着替える姿なんて――。

 朝食に行くためにバタバタと準備している時も、シースルーの多い下着を身につけ、ゆっくりと制服を着ていく稜夏りょうかにフラフラと近寄って触れてしまう。


「ああ、いけませんわ、賢治さん」


 やはりまた拒否されてしまう。

 俺は悔しくって何度もキスをした。さすがにせっかく風呂に入ったのに襲うのは出来ない。

 強く抱きしめながら、何度も舌を絡める。


 さすがに時間がまずいのか、俺の唇を稜夏りょうかの人差し指が触れて押し留めた。


「もう、いけない人。修学旅行から帰ったら、ちゃんと話し合いましょう? お時間、ありますわよね」

「あ、う、……あ、ごめん。襲って、俺は、君が好きで」

「もうあれほど情熱的だったのに。ほらほら、準備したのでしたら、お先に朝食の席を取っておいてください?」

「あ、分かった……」




 修学旅行が終わり、昼に俺は無事家のある地元駅まで帰りついた。同じ駅にいる学生は少々少なめで、ハブ駅で解散を宣言されているため、各々もう家に向かって歩いていく。


「家に帰ろう。どんな事になるんだろう。いくら好きだからって、あんなことしでかして……。打首かな。ははは」


 俺は帰ろうと思った。ふわふわとした気分で、歩き出したところで稜夏りょうかに腕を掴まれる。あれ、稜夏は違う駅なのに。


「賢治さん行きますわよ」

「え?」

「私の両親に結婚相手として挨拶していただかないと、いけませんものね」

「「「ええええええええええええええ」」」


 俺ではなく周りの学生たちが絶叫する中を、悠々と稜夏りょうかが歩いていく。出迎えに着ていた車に、稜夏りょうかが俺を押し込んだ。


「出してくださいまし」

「えええ!?」

「騒がしいですよ、賢治さん」


 俺の驚きは厳重な車内に響いて、ニコニコと笑顔の稜夏りょうかに黙らされた。

 その後は多く語ることはない。

 休みを挟んだ週明け、結婚の前準備ということで二人きりの同棲が始まって、二人の生活が始まったそれぐらいだから。



  φ


「人がいるところではお友達だって言わないとダメな建前告白待ちお嬢様と、延々お友達仲良し大作戦したせいで告白もしなくなったヘタレの男って、まじだるいわー」

「人前でデートしてイチャつきたいなら告白しろよって感じだよね~」

「まあ、修学旅行でデートが出来なくて落ち込む姿で笑わせてもらったから、許してやるか」

「ぷぷっ。ホント仲良し大作戦で成功してるのに、ヘタれて大失敗して修学旅行デート出来ないの笑っちゃった。でも、お嬢様は怖いねぇ~。私、彼氏居るって言ってるのに、いっつも釘刺されてたもん」

「おお、怖い怖い」


――――――――――――――――――――――――――――

幼馴染にフラれたからが、重いのでまっすぐイチャラブ系を気ままに書いてみました。多分これイチャラブで良いんだよな? と思いながら。


現在連載中の「幼馴染にフラれたから」も、気が向いたらどうぞよろしくお願いします。

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友達止まりだった俺が、お嬢様学級委員長を修学旅行で押し倒して告白した 紅島涼秋 @akashima-szak

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