反逆艦隊と言われていたのはただの劣等艦隊だった
空野そら
第一章【プロローグ】
俺は今、トルーク国の国防を担うトルーク国防省を訪問していた。
そして国防省の中でもトップ中のトップである国防相の部屋の前まで来ていた。
目の前にあるドア一枚先で何を言われるのかという不安が頭一杯に募って胸を打ち付ける鼓動が早くなる。しかし、いつまでもドアの目の前で立っていても何かが起きる訳がなく、俺はことを進めるべく一度深呼吸をして勢いよくドアノブを捻ってドアを開ける。
すると、視界の先には黒色の、革製であろう回転する椅子に優雅に座っている、老けて頭の方が少し寂しくなってしまっているおっさんがいた。
「あ、よ~っす、久しぶり」
「......おじさん、仕事しないんですか?」
「おじさんって言うのダメだろ、おじさんは! お兄さんって言え! まだ俺は27歳だぞ?」
そう、この目の前にいるおじ......お兄さんは老け顔で頭部が寂しくなっているものの、実年齢は27歳なのである。そして、このお兄さんは俺の叔父にあたる人物だった。
「あーはいはい、で? 今回は俺になんの用です?」
「はあ、え~っと、はいこれ」
「ん?」
叔父......お兄さんから渡されたのはものすごく分厚いファイルでそのファイルの表紙にはシンプルな文字で『部隊異動報告書及び関連書』と堅苦しく書かれていた。
そんな堅苦しい題名のファイルを開いてペラペラと軽く中身を見ていくと、目を引く文面が現れる。その文面というのは......
「......なあ、この、フルート・エイラットを
「んあ? その通りだが?」
そう、俺の目を引いた文というのはこの俺、フルート・ライアットの異動を命令する文だった。そして一度では理解することができなかったため何度も読み返し、最終的にはお兄さんに疑問を飛ばしていた。
しかし、お兄さんから返って来た答えはファイルの内容を肯定する言葉だった。
そして俺はこの即応予備艦隊という名前に覚えがあった。
「いや、いやいや、即応予備艦隊って反逆艦隊って言われてる艦隊ですよね」
「まあ巷ではそう言われてるらしいな」
「で す よ ね! 俺なんかしました?」
「ん~まあ、とりあえず行ってら」
噂程度なのだがその即応予備艦隊というのは過去に一度、戦時中に反逆をして味方を攻撃したという、そんな噂が流れ始めてから反逆艦隊という不名誉この上ない名で呼ばれるようになった、らしい。
そのことをお兄さんに確認するかのような言葉を掛けると興味が無さそうに適当にあしらってくる。そんなお兄さんに威圧を含めた言葉を飛ばすもやはり軍人のトップと言うべきか、まったく屈せず、のんきに手をひらひらと振る。
少しイラついてしまったが何とかそのイラつきを抑え、ファイルに書かれていた異動場所へ向かう準備をしに自宅へ帰るのだった。
★ ★ ★ ★ ★
国防相であるお...お兄さんから突然の異動を命じられ、異動の準備を整えた日の翌日。俺は異動先が本島から離れた離島にあるらしく、そこに向かうために軍港へ足を運んでいた。
そして軍港の片隅にある小さな波止場に停泊していた移送用である船の前に立つ。
「う~ん、想像してたのと違う。ほら、こ~あそこに停泊してる軍艦みたいなさ、そういう系だと思ってたんだけど......」
「あ、フルート! 久しぶりだな」
「え? うっわゲーテ」
「おい、久しぶりだってのにうわって何だよひでえなあ」
傍から聞けば愚痴のように聞こえる言葉を零していると背後から自身の名前を呼ばれたため振り向くと、そこには軍隊の育成学校で親友と言えるまで交友関係を築いたゲーテ・マッタルが立っていた。
ゲーテの姿を見て咄嗟に俺は異物を見たかのような声が出てしまい、それについてゲーテから指摘を受けてしまう。
「んで、なんでお前がここにいんだよ」
「いや~ちょっとね? 政府機関の機密情報にアクセスしたことバレて左遷されちまった」
「何てことしてんだ、まあお前は一応エリートだしなあ」
「それほどでも~、てか、お前こそここで何してんだよ」
違う意味ですごいことをしていたゲーテにツッコミを入れ、なぜ左遷だけで済んだのか考えると、ゲーテは育成学校時代や、育成学校を卒業してからもかなり優秀だったらしく、俺もたまにゲーテのしたことを耳にしたことがあった。そのため軍も優秀な人材を手放したくなかったのだろうと勝手な推測を立て、それを言葉にしてゲーテへ飛ばす。
するとゲーテは照れたように頭を掻くと何か思いついたかのように俺に対して質問を振ってくる。
「あ~、俺はなんか異動になった」
「へ~異動ね~、で? どこに?」
その質問に自分でもまだよく分かっていなかったため少し適当気味に返答すると、ゲーテはさらに質問を飛ばしてくる。
俺はその質問にどう返答すればいいのか一瞬迷ったものの正直に本当のことを言った方がややこしいことにならないと思った。
「即応予備艦隊」
「......は? ちょ、もう一回言ってもらっても?」
「だ~か~ら~、即応予備艦隊だって、あの反逆艦隊って言われてるやつ」
「お前、なんか不祥事でも......いや、確かお前の叔父さん国防相だったし」
誰かさんが聞いたら反論しそうな言葉が混じっていたがそんなこと気にせずゲーテが勝手な憶測を立てているためそれに対して少し反論気味に口を開く。
「不祥事を起こしたわけではないと思う、それに真っ先に出るのが不祥事ってどうなんだよ」
「いや~でも、ほら反逆艦隊に送られるのって、大体問題起こした奴らじゃん?」
「まあそう言われてるよな、いや~しっかしほんとになんで異動になったんだ?」
「自分でも分からんのか?」
「まあ、国防省に言ったら急に異動だって」
「は~お偉いさんの考えは分からんもんだな~」
自分でもなぜ異動になったのか分からない旨を話すと案外すんなりゲーテは俺の話を信用したらしく、本当に何も分かっていないような言葉を口にする。
すると波止場に止まっていた小型の船舶から海軍特有の制服を着た男性が小走りで向かってくるとゲーテの背後で立ち止まる。そして足音で誰かが近づいて来たことに気付いたゲーテが振り向くと、海軍兵が大きく口を開く。
「出港準備が整いました! フルートさんと艦長が乗艦次第出航できます」
「おい~マッチ~いっつも言ってるだろ? 艦長のイントネーションは『艦長⤵』じゃなくて『艦長→』、前にも言ったろ? 浣腸と同じだって」
「どういう教育してんだ......てか、お前左遷されたのに艦長なのか?」
マッチと言われた海軍兵がゲーテと俺に対して出航準備完了の報告をすると、ゲーテはそれについて反応せず、艦長のイントネーションに対して少し変な指摘をする。
そんなゲーテにツッコミを入れると、俺はゲーテが左遷されたのにも関わらず、艦長という職に就いていたことに疑問に思う。
「まあ? 俺が優秀だからじゃないの?」
「あっはい、そっすね」
「ひでぇなぁおい」
「......はあ、なあゲーテ」
「ん?」
かなりウザがられそうな言葉を口にするゲーテに塩っぽい対応をするとゲーテは即座に反論を返す。
そして俺は少し黙り込むと問いかけるようにゲーテの名を口にする。すると当たり前のようにゲーテは反応をする。
「俺、大丈夫かな」
「まあ、何とかなるだろ。それにお前なら......いやこれはまた別の機会に話すとしよう」
「は? 何だよ、なんか知ってんのか?」
「まあまあ落ち着いて、でもお前ならあの艦隊をどうにかできると思うぜ」
「はあ、できるだけやってみっか......」
そんな風に言葉を交わすと、俺とゲーテはマッチと共に停泊してある船に乗り込むのだった。
反逆艦隊と言われていたのはただの劣等艦隊だった 空野そら @sorasorano
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