第2話 いざダンジョンへ!

 森の近くの街道を馬二匹に引かれて幌付きの荷馬車がゆっくりと進んでいる。




♪ドナドナドーナードーナー

♪子牛を乗せて〜


♪ドナドナドーナードーナー

♪荷馬車が揺れる〜



 十人が所狭しと座るぎゅうぎゅう詰めの荷馬車の中で、オレは腕で顔を隠して、泣き真似をしていた。


「………そんなこんなで、親が借金を残して死んだ後は、もう学校にも行けず借金取り達に縄で縛られ、首輪をつけられ、鞭で叩かれて……。ずっと無賃ただ働きをしてたんよ。ぐすん。そして、遂に借金取り達はそれだけじゃ飽き足らず、ここに送り込まれたって訳なんよ」


 オレはよだれをこっそりと目尻に塗っておき、外に向かって大声で叫ぶような真似をした。


「とうさーん!かあさーん!どうして僕を残して行っちゃったのー!」



 オレの叫びを聞いて、周りの大人達が雄叫びにも似た嗚咽を漏らす。そして、オレは叫んだ後でまた顔を隠して、その腕から周りを窺うために少しだけ目を出した。こっそりとオレを囲む冒険家達を見る。しめしめ、ちょろいもんだぜ。みんな涙を拭いたり、鼻を啜ったり、思い思いに泣いていた。

 その中の一番体毛の濃い熊みたいな男がオレの肩をぽんぽんと叩いた。


「辛かったろう?大変だったなぁ……!おじさん達が力になってやる!絶対今度こそ幸せ掴もうぜ!」

「おう、そうだそうだ!オレ達にまかせろ!」



 (うっしっしっ。まさか、こんな作り話に引っかかるなんて楽勝楽勝)


 オレは内心ほくそ笑みながら、泣いたフリを続けて、コクリコクリと頷くフリをした。




****


 かくしてオレは九人の従者を従えて、初ダンジョンに挑むことになったのだった!



〈ダンジョン:スカイツリー〉

 地殻変動により地面より筍のように出てきた古代遺跡の塔。百階建てで地面からテッペンは見えない。かつて、この地方を支配していた豪族の塔と思われ、その頂上にはお宝が眠ると噂されるが、詳細は不明。

 なお、出現してから三日しか経っていないため、まだオリジン達は到着していない。



 オレは荷馬車から降りると、背伸びと欠伸をしてから、わざとらしく大声で叫んだ。



「あぁーっ!まずいや!」

「なんだ、なんだ?どうした坊主」

「あっ、それが………」



 オレはたっぷりと間を取って、とてもとても申し訳なさそうな顔をしながら、オレの元に集まり心配そうに眺める九人の大人達に上目遣いで告げた。


「ぼくぅ……、何にも装備が無いんだ……。借金取りに無理矢理送り込まれたから……」


 大人達は少し戸惑いながら沈黙した。オレは間髪入れずにダメ押しを決める。


「だから、皆んなで行ってきて!僕は足手纏いになる。待ってるよ!お宝を得られないのはちょっと残念だけど…。でも、しょうがないよね。まさかみんなに"お宝だけ山分けして"なんて言えないし……」


 大人達が沈黙して気まずそうにお互いの出方を伺う。


(うっしっしっ。ダンジョンなんて面倒なとこ行ってられるか!お宝だけいただいてやる)


 そのとき、例の一番体毛の濃い熊みたいな男がオレに寄ってきて、オレの肩を抱き寄せた。


「大丈夫だ!安心しろ。俺たちが守ってやる。そうだよな、みんな!」

「「おぉー!」」


 男達が雄叫びを挙げる。オレは唖然とした。


 いや、そうじゃないんよ、オレが期待しているのは。



 そう思いながら盛り上がった大男達に、まるで神輿のように担がれて、オレは初ダンジョンに潜入することになったのだった。




「ちょっと待って。そうじゃない!そうじゃないよ!ちがーーーう!」



 オレの叫びは虚しく青空の中へと消えていった…………。





--作者一言--


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【打切】オレ君、最強魔女に"呪いの鎧"を装備する チン・コロッテ@少しの間潜ります @chinkoro

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