【打切】オレ君、最強魔女に"呪いの鎧"を装備する

チン・コロッテ

始まりの章 オレ君、借金取りに見つかる

第1話 遂に捕まるオレ!

 傷を負い、薄暗いダンジョンの地面に伏せるサイの目の前で、魔物が次々に"紅い焔ほのおの兵士"に殺されていく。


 焔で作られた兵士の奥で、陽炎かげろうに揺れるその小柄な女は、〈紅焔こうえんの頂上〉の二つ名を持つアンリエッタ・エル・パータ。焔を操る世界最強の魔女だった———。




****


 遡ること数日前。

 ここは人間と魔物が存在し、まだ人類未踏の地が多く残っている摩訶不思議な世界"ファンタジア"。


 この世界には、冒険家として地図を作ることで生計を立てている者が一定数いる。冒険家は地図により、人の住めるところを拡大し、未知の材料の在処を示し、危険な地帯を知らしめた。


 人々はそんな冒険家を尊敬していた。それ故に、彼らが見つけた地には彼らの名を冠し、彼らのことを"オリジン"と敬意を込めて呼んだ。


 その中でも最も多く地名となり、最も知られる"オリジン"は、アンリエッタ・エル・パータ。〈紅焔こうえんの頂上〉の二つ名を持つ魔女。今日は彼女の日々に密着取材をしていく———。



 そんなナレーションが魔導テレビから流れてきた。オレは鼻をほじりながらそれをぼけーっと観ていた。


 オレの名前はサイ・ハテナ。白髪のボサボサ頭の二十歳。十四歳で義務教育を終えた後、定職に就かずにプラプラしているいわゆるフリーターだ。


 今日も一人暮らしの1Kアパートで、お決まりの涅槃ポーズで鼻をほじりながら、魔法で動くテレビを観ていたところだ。


 四日前にバイトを辞めた(正確にはバックれた)ばかりで暇なもんで。今回バックれたバイト先の店長も含めて、会うとまずい奴らが多くて、昼間は到底外を出歩くことはできないので、こうして家で時間を潰している。



 この世界には冒険家以外にも当然に仕事があって、世界の大半の人は衣食住の何かの仕事をしている。"衣"は呉服屋や冒険家向けの装備品作製、"食"は料理店や珍品ハンター、"住"は大工や住宅街護衛などなど。大体冒険家というのは、世界でも少数しかおらず、その中でも"オリジン"と呼ばれる程の冒険家は数えるほどしかいない。


 オレの中では、"冒険家=命知らずの馬鹿たち"と位置付けされている。オレはそんな危険など犯さずに生きていければ、それで満足。




 そんなとき、ぼーっと魔導テレビを観ているオレの部屋に「ガチャリ」と鍵の開く音が響いた。



 鍵を閉めたはずの玄関の戸が開く。オレはスナック菓子をひとつまみして、口に放り込む。泥棒か?まぁ、正直この部屋に金目のものなんてないし、脅かしとけばそそくさと帰るだろう。

 オレはいつものセールス撃退時と同じように、玄関に向けて叫んだ。



「すんませーん。今、留守でーす。お帰りください」

「見つけたぞ、コンチキショーめ!」


 怒号を聞き、チラリと玄関を見ると、デブのオッサンが鬼の形相で入ってきた。スキンヘッドに口周りを一周するあのヒゲは…。「あっ、やべっ。大家だ」と気付くも時既に遅し。大家は寝そべるオレを紐で縛った。すると、次々に男たちが入ってきて、気付くと何人かの怒ったイカつい大人たちに囲まれていた。


 オレは苦笑いで、彼らを見回して挨拶をする。


「や、やぁ…これはみなさんお揃いで…。部屋を貸してくれている大家さんに、この前雇ってくれた店長に、親切に金を貸してくれたルイス君に、えーっとあと誰だっけ?」

「オイラはお前に唯の石ころを宝石と言われて買わされたハナップだよ!」


 ほっぺがパンパンに太り過ぎて、口がいつもタコのように開いている大柄の少年が言う。


「そうそう、ハナップ君だ。みなさんごきげんよう。ところでハナップ君、あの後良いことあった?」

「ないよ!河原で同じ石見つけたくらいだ!」

「そう、それは良かったじゃないか。それを持っていれば二倍の運勢になる」

「嘘つけ!馬鹿タレが!」


 代表して大家がオレに怒鳴った。おー、こわいこわい。凄くお怒りのようだ。オレはやれやれといった風で、大家を宥めた。


「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ、大家さん。皆さんの前ですし」

「お前が言うな馬鹿タレ!」


 ゴンっ。大家はオレにゲンコツをかました。


「いてっ!?無防備の人になんてことするんです!犯罪だ、警察を呼んでください!」

「馬鹿タレ!家賃滞納に無銭飲食。給料泥棒に詐欺。お前の方が犯罪じゃ!」


ゴツンっ。


「いてっ!分かりました、もう辞めてください。ごめんなさい。さぁ、謝りました。縄を解いてください」


ゴツン。


「いてっ!もうたんこぶが五段くらいになっちゃっているじゃないですか」

「まだ三段だ!これで五段!」


ゴツン。ゴツン。


「いてーっ!すみません。もう変なこと言わないんで、やめてください。とりあえず何のようですか?こっちはまだテレビの途中なんで、用事あるなら早めに終わらせて欲しいんですけど?」

「てめぇが言うな馬鹿タレ!」


ゴツン!


「いてっ。分かった、もう分かりました!金を返して欲しいんでしょう?でも、残念。オレは今無一文です。返す金はない訳です。分かる?」

「なら、話が早えな!」


 そういって大家はオレを2階の窓からぶん投げた。くうに浮くオレに大家が吐き捨てる。


「新ダンジョンとやら稼いでこい馬鹿タレ!」


 オレは空中で反論する。


「はぁ?ふざけんな。誰がそんなこと…」


 バフンっ。ヒヒーン。パカッパカッ…。


 あれ?石畳じゃなくて、柔らかい布の上に落ちたし、なんか動き出したぞ?

 オレが落ちた先には、冒険者を乗せる荷馬車があり、その幌の上に着地したようだった。

 オレをはめた大人たちが窓から乗り出してオレを見送る。


「はははっ!ざまぁみやがれ、馬鹿タレが。せいぜい稼いでこい!」


 オレも涙を流しながら笑顔で、お別れの挨拶を告げる。


「ありがとう、友よ!お前らみんな地獄に落ちろ!」

「だははははっ、せいぜい楽しんでこいよ!」


 そして、オレはそのまま新ダンジョンに運ばれたのだった。




--作者一言--


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