(SS)25.3話 バレンタイン
ヨーロッパ風の世界観の乙女ゲーム。って言うけど、ヨーロッパっていろいろあるよね! まあ、ごちゃ混ぜよ。てきとうなのよ。
だからさ、イベントも日本風でいいのよ! バレンタインでチョコを贈らないからね。男性がプレゼントする日よ!
だけどここはLOVEパワー。日本風にイベントをこなしで親密度を上げてもらいましょう。
手作りさせるか。
◇
「では、あなた達四人でチョコレートケーキを作ってもらいます。手作りを選択するのが、一番好感度があがりますから!」
私は女子四人を、学園の調理室に呼び出して命じたんだよ。だってさあ、ここのケーキ作りイベントって女子四人がわちゃわちゃする数少ないイベントなんだよ。なのにほっといてケーキ焼けるほど、お嬢様方料理なんてしたことないって言うんだもん。そうよね。ウーリなんか料理したことねえよな。多分イリーナ様やエリーヌ様も、料理人に任せるよね。そりゃそうだよ。ご令嬢だからね。
「ということで、あなただけが頼りよ。アンリさん」
「嫌だぁ! あほ王子に作るケーキなんてない!」
女子達が残念な子を見る目をしてるよ。
「だって、嫌だって言うのにいつまでも『あああああああ』って呼ぶし!」
ああ、そうね。
「本当に。カール王子もアンリって呼んであげればよいのですが」
「私もそう思います、イリーナ様。ウーリ様もそう思いますよね」
「そうね、エリーヌ。ケールにも言っているんだけど聞いてくれないのよね」
この件では女子の結束しているね。アンリさんには悪いけどいい傾向だね。
「アンリさん。料理経験あるのはこの中ではあなただけです。別に王子のために作れとは言いません。あなたには別の報酬を用意しておりますのよ」
「別の報酬?」
「そう。料理です。あなたが忘れている料理を思い出させて上げましょう」
「私が忘れている料理? まさか!」
食いついて来たよね。そうよ、日本人が開発した日本人の心の支えよ!
「特別な材料もいらない料理。きっとあなたは忘れているだけ。いつでも再現できる当たり前の料理よ。ケーキが上手にできたら食べさせてあげるわ」
そう。単純な料理なんだけど、思い出せないよね。
「……やります」
よろしい。
◇
「ウーリさん! 粉の振るい方が!」
イリーナ様が粉だらけになっている! ウーリ、振るの横! 縦にしてどうする!
「いまなら粉塵爆発おこせる?」
アンリさん! ヤバいこと言わない! やらない! やる気満々⁈
私は風魔法で粉を回収した。
「はい。一からやり直そうか」
卵は白身と黄身を分けるのよ。黄身潰すな! カラ混ぜるな!
あの素敵な一枚絵たちは、見ようによっては確かにあったが、それは散々な失敗の中で切り取られた見せかけの偶然ショットだったようだ。令嬢様達にはチョコレート、水、重曹を量ってもらうだけにして、後は黙々とアンリさんが作っていった。私? 私が手を出すと趣旨が変わるからね。あくまで四人の手作り。
生地が出来たらあとは焼くだけ。石窯なんて温度調節難しいから、私が作った魔道具のオーブンに突っ込んだよ。お嬢様達は分からないからばれないけど、さすがにアンリさんは気がつくよね。
「これは?」
「私のだ。それより報酬だ。あなたなら簡単に作れる日本らしい食品を教えよう」
まわりに聞こえないように小声で言うと、アンリの目が光った。
「まずは小麦粉100と水100、卵1個、それから重曹を小さじ一杯を混ぜようか」
「何を作るの?」
言われた通り混ぜながら聞いてきた。まだ分からないの?
「キャベツ千切り」
「あっ!」
やっと気づいたか。この世界にはソースはあるんだ。できるだろう、お好み焼き。日本発祥の小麦粉料理だ! かつおぶしも青のりもないけど、マヨネーズならある。味はそこそこにしかならないけど、簡単に作れるしいいよね。
アンリは焼きたてのお好み焼きを涙流しながらすごいスピードでたいらげた。
「なんで私は気が付かなかったんだ!」
固定概念があるとね、見過ごすんだよ。簡単なものほどね。
「お二人で何を召し上がっているのですか?」
「ズルい! リリア、私にもよこせ!」
「リリアさん。アンリさん。おいしそう……」
「お嬢様方、これはアンリへの報酬ですよ。役立たずに出す料理じゃないのです!」
「「「ひどい!!!」」」
ひどくねーよ。なんの役に立った? 仕事増やしただけじゃん。
しゃーないね。ご褒美くらいやるか。
「では皆様、ボールや泡だて器を洗って片付けて下さい。それが出来たらどんどん焼きを作ってあげます。あれとは別物ですが、美味しいですよ」
おっ、片付け始めた。じゃあ作るか。山形のどんどん焼きは、魚肉ソーセージと海苔がポイントなんだけど……。まあ、サラミでいいか。海苔の代わりにチーズにしょう。あ、どんどん焼きってここ見て!
ーウィキペディア どんどん焼きー
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A9%E3%82%93%E3%81%A9%E3%82%93%E7%84%BC%E3%81%8D
生地を焼いたらクルクル巻いて、と。
おっ、チーズがいい感じ。たっぷりとソースをかけてできあがり!
「はい、一人一本どうぞ。マヨネーズかけても美味しいですよ」
アンリさん! あなたお好み焼き二枚食べたんじゃ……はいはい、焼きます。まったく。
あ〜、みんな素敵な笑顔。みんなでどんどん焼き食べながらの最高の笑顔。でもここスチル絵にならないよね。残念。
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