第98話


「ここじゃない異世界から来たって事は宇宙人ってことでしょ!? そんなやつと付き合えるわけないじゃない!」


 なんてことを言われるかも……って思いもほんのちょっとくらいはあったんだが、俺の心配は杞憂で終わった。


 彼女達が言うには、前世の記憶があるということのインパクトがデカすぎるせいで、今世の俺が異世界出身だということがかすんでしまったらしい。


「キャメロン王国から出たことはほとんどありませんけど、北や南には王国とは全然違った風土を持つ国も多いらしいですから。私達からすれば遠い異国の人も異世界の人もさほど変わらないというか……」


 ルルの言葉に、なるほどそういうものかと頷いてしまった。


 飛行機なんてものもなく、海を渡す手段が帆船くらいしかないディスグラドでは、情報の伝達速度は非常に遅い上に不正確だ。


 日本がなぜか黄金の国ジパングになっていたように、この世界にもまったく知らないような場所が数多く存在している。

 そんな状況では異国も異世界も大して変わらないらしい。


 俺からすると転生より異世界の方がインパクトがデカいと思ってたんだが、彼女達からするとむしろ転生した人をリアルで見れたという事実の方が大きいようだ。

 こういうのもカルチャーギャップって言うんだろうか。


 ただどうやらまったく興味がないというわけではないらしく……


「というか、私達もその日本という国に連れて行ってほしいです!」


「ね、タイラーだけ行ったり来たりできてずるいよ!」


「私も行ってみたいわね……」


 アイリス達がものすごくおねだりをしてきたので、根負けした俺は彼女達を日本に連れて行くことになった。

 おじさん、女の子の勢いには勝てなかったよ……。


 というわけで明日は、急遽彼女達の日本観光ツアーをすることになってしまった。

 一体どうしてこんなことに……とにかく下手に騒ぎになったりしないようしなくては。


 エルザとライザに話をするかは、彼女達の判断に任せることにした。

 『戦乙女』として一蓮托生なわけだし、まあ悪いようにはしないだろ。


 もう秘密をぶちまけちゃったので、今更細かいところは気にする必要もない

 いやぁ、もう隠すことが何もないせいか、妙に身体が軽いなぁ!


「それじゃあ俺は準備してくるわ。明日の朝になったら、パーティーハウスに迎えに行くからな」


「わかったわ!」


「楽しみだね、どんな場所なのかな?」


「どんな魔法技術があるんでしょうか? 今から気になって、夜しか眠れません!」


「夜は普通に眠れてるんだね……」


 しまった、説明することが多すぎて日本には魔法技術がないってこと伝えるの忘れてた……。

 ――まあ、いっか!

 そのあたりは明日説明すればいいし、なんとかなるだろ!


 理論を捨てて感覚を頼ることにした俺は、半ば思考を放棄してから一旦、お暇させてもらうことにした。

 向かう先は二日ぶりに帰ってきた懐かしき我が家。


 ――人が来るの自体、めちゃくちゃに久しぶりだ。

 恥ずかしくないように、部屋を大掃除しなくっちゃな!



 ディスグラドの屋敷の方はお掃除ゴーレムに任せてしまえばいいが、こっちの世界だとそういうわけにもいかない。


「いっそのことゴーレムを持ってきても……いやいや、やめておこう」


 ちょっとリミッターが外れかけてるぞ俺。

 ゴーレムって結構重いし、ドスドス音を出せば目立つ。

 下の階の人に迷惑もかけたくないし、一部屋くらいなら俺だけでも十分掃除ができる。


 風魔法を使ってホコリを集めてから、そのまま空気中に含まれているゴミを圧縮して一箇所にまとめる。

 ただこれだと細かいところまで調節は利かないので、部屋の隅のあたりはクイッ○ルワイパーとコロコロを使って綺麗に。


 ゴミ出しの日的に明日出せるのが缶だけだったので、とりあえず缶を袋に詰めて玄関に置き、残ったゴミは応急処置として『収納袋』に入れておく。

 容量に制限がないので、俺の部屋の中がゴミであふれることはない。

 ただこれに慣れてしまうと、ゴミを全部ぶちこんでしまいそうなので、後でしっかりと分別してゴミ出しすることにしよう。


 家の中に食えるものがほとんどなかったので、近くのコンビニへ。

 夕食の弁当を見るが、なんかまたちっちゃくなった気がする。


「げっ、マジかよ」


 しばらく買っていなかったので気付かなかったが、俺が大好きなポテチの値段は既に200円を超えていた。

 ポテチに200円は……流石に出せない。


 見なかったことにして、おにぎりと惣菜パンを買う。

 それでも結構な値段がする。


 大きさを維持して値上げをするのか、そっと内容量を減らしてサイレント値上げをするのか。

 俺的には後者の方がいい。


 何せ年を取るにつれ、油の許容量がどんどん減ってくからな。

 正直最近だと、ポテチ一袋を食い切れない時もある。


 飯を食ったら、そのまま風呂に入る。

 水場の汚さが気になったので、洗浄剤を使って赤カビ黒カビまとめていっておくことにした。


 最後にトイレ用洗剤とブラシを使って便器を綺麗にしたら、とりあえず人に見せられるくらいにはなった。

 全ての用意を終えてから、ベッドに横になる。


 一日の三分の一を占める睡眠の質は重要だからと、社会人になってから買い直したわりと高めなベッドだ。

 買った時は五、六万くらいぐらいだったが、今見てみたら十万を超えていた……物価高って怖いね。


「しっかし……なんだか気分が晴れやかだ」


 俺は小学生の頃から大の掃除嫌いだった。

 掃除当番でもなんやかんや理由をつけてサボるか手を抜いていたし。

 そんな俺がわりと楽しみながら掃除ができるとは……。


 酒を飲んだり遊び回ったりしたわけでもないのに、妙に身体が軽い。

 ひょっとすると……俺は自分でもわからないうちにストレスを溜めていたのかもしれない。


 今まで誰にも打ち明けられなかった秘密。

 それを共有している女の子達がいて、ありがたいことに彼女達は俺の彼女なのだ。


「そっか……俺、彼女ができたのか」


 一体何年ぶりだろうか……数えてみたら、実に七年ぶりだった。

 高校大学の頃も一応彼女は居たが、どちらもあまり長続きしなかった。


 なんとなく付き合って、永遠に一緒に居るように錯覚して、お互い夢が覚めて別れて……

自分で言うのも何だが、ありきたりな恋愛だったように思う。


「別れたくないな……」


 今世ではなんとなくその場の流れで付き合ったり別れたりを繰り返してきた俺だったが、今回ばかりは本気で、別れたくないと思った。

 俺はウィドウもアイリスもルルも好きだ。

 彼女達がいなくなったらと思うと、ぞっとする。


 ふらふらと浮ついていた俺がディスグラドでしっかりと地に足をつけようと思ったのは、間違いなく彼女達『戦乙女』との出会いがあったからだ。


 もし彼女達と出会っていなければ……俺のイラの街での生活は今より何段も味気ないものになっていただろう。

 数年もしないうちに異世界暮らしに飽きて、再び日本で社畜生活に戻っていたかもしれない。


「大切にしなくちゃな……」


 もっとも三人とも、俺が守ってあげなくても自分で自分の身は守れるくらい強い子達ではあるんだけどさ。

 ほら、それでも格好つけたいじゃない。

 一応俺だって男なわけだし。


 付き合いたて特有の奇妙な高揚感に包まれながら、俺はそのまま眠ることにした。

 明日は色々と大変そうだし、今日はいつもより多めに睡眠を取っておくことにしよう。





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アラサー魔術師のゆる~いハーレムライフ  ~異世界と現代を行き来してのんびり暮らします~ しんこせい @shinnko

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