6.初めてのお仕事は・・・実験台!?

「で?そのこうもり博士2世が、どんな用事で俺たちを呼んだんだよ。」

 ジャンが言う。ヨハンはジャンが怒っている事に気づいていないのか、それを見ながらニコニコと答えた。

「いやはや、君たちを呼んだのは他でもない。僕の発明品の”実験台”になって欲しいんだな。」

「は?実験台!?」

 その言葉に、流石のネッケも驚いた様だった。カノンとロベルトに関しては、ぽかーんと口を開け、驚きで物を言えずにいる。


「そうさ。このこうもり博士2世の発明の、名誉ある実験台さ。報酬などの話は君らの上司に通っているハズだが?」

「いや、報酬云々の話じゃねぇよ。俺たちゃここに、演奏っつー名目で来てんだぜ。それを無視して実験台だぁ?んな話があるかよ。」

「”ある”も”ない”も、無いじゃないか。」

「自分でわかってるなら言うんじゃねぇよ。」

「そうじゃない。事実、今の君らの様に、言われてきた仕事を無視してでも何かを成さねばならない事も”ある”のさ。人間、柔軟に生きるものだよ、君。」

「・・・頭が痛くなってきたぜ、おい・・・」


「ま、まぁ!百歩譲ってさ、実験台は良いとしてもさ。」

 ネッケが話し始める。

「どんな実験なのさ、その発明って。」

「おぉ、よく訊いてくれた!君は理解力がありそうだ!」

 と、ヨハンはワクワクとスキップしながら、部屋の隅に置いてある発明品を取りに行った。トルソーに掛けられたそれは、まるで羽根の様な物だった。


「それは・・・?」

「これはね、”フレーダーマウス37号”だ!」

「・・・・・・いや、発明品の名前じゃなく、具体的に何をする発明なのか訊いてるんだけどな・・・」

「ん?見てわからないかい?コイツで”空を飛ぶ”のさ。」

「・・・え。」

「着脱可能な人間用の羽根・・・いや、翼と言っても良いだろう。それを僕ぁ開発したのさ!」


「・・・あのさ、ジャン。」

 ヨハンの話を聞いたネッケが、小さな声でジャンに訊ねた。

「なんだよ・・・こっちは疲れてるんだぞ・・・」

「人ってさ・・・飛べるの・・・?」

「知らねーよ、お前が訊けばいいだろうが。」

「えぇ・・・だってアレ・・・いかにも”飛べ無さそう”じゃん。」

 ネッケが指さした”フレーダーマウス37号”は、翼幕の部分こそよくできているものの、骨組みは細く、握るだけで折れそうな見た目だった。


「アレを着けて、今日、私たち、飛ぶんでしょ?事実。」

「・・・俺はパスだぞ。」

「わ、私だってパスだよ!」

「あ、あの、僕もパスで・・・」

 それをこっそり聞いていたらしいロベルトが、そ~っとやってきてそう言った。

「・・・じゃあ。」

 と、ジャンはまだぽかーんとしたままのカノンを見て言った。

「1人しかいなくねぇか。飛ぶの。」


「・・・・・・え?」

 気づいたらしいカノンがジャンの方を見る。が、時はもう既に遅い様だった。

「おぉ、君が代表して飛んでくれるのだね!いやぁ、助かるよ、生憎”試作品”はひとつしかないものでね、君ら全員が喜んで飛びます飛びますと言ったらどうしようかと内心焦っていたのだよ。しかし、君の体つきなら飛べそうだな。体重は何キロだろうか?身長も測らせてくれたまえ。あぁ、あと参考までにスリーサイズと・・・」

「す、スリーサイズは関係ないでしょう!」

 嬉々としてカノンの肩に添えられていたヨハンの手を、カノンが振り払った。


「いや、そこが一番大事なのだが。」

「お、女の子に向かって何訊いてるんですか!」

「あぁ、失礼。つい、熱心になってしまってね。なにせ、この発明は父の・・・」

 ヨハンはそう言いかけてから、「あぁ、いや、何でもない。」と言いなおした。

「・・・んじゃ、俺たちはカノンが”飛ぶ”所の演出音楽を頼まれてやるよ。」

「ご、ごめんカノン、私もそっちに回ろうかな・・・」

「ど、ドラムロールも、必要です、よねぇ?」

 カノン以外の面々は、しどろもどろになりながらも、なんとかうまく回避した様だった。


「え、ちょ、みんな?」

「じゃ、俺、楽器借りて来るから。」

 ジャンは1番にそう言ってそそくさと家から出て行った。

「あ、えっと、楽器、馬車に積んでたっけかなぁ~!あ、あはは!あはははは!」

 と、2番目に出て行ったのは棒読みで笑いながらそう言ったネッケだった。

「あ、えと、僕、ついていきます!」

 3番目に、特に言い訳が思いつかなかったのか、半ば強引にそう言って、ロベルトが家を出た。

 唯一残ったのは、今更退くに退けなくなった、カノンだけであった。


「ふむ、確かに飛ぶ際の音楽があっても良いだろう・・・魔楽隊の者たちはやはり優秀だ。先手を打つ様に動くねぇ。」

「そ、そうですね、先手を打ちましたね、みんな・・・。」

 カノンはどこか裏切られた様な気がして、寂しくなった。

「ところで君、名前は?」

「あ、えっと、カノン・パッヘルベルです。」

「カノン君か。よく書いて覚えておくよ。僕の実験に付き合ってくれた、優秀な徒としてね。」

 と、設計図の端にインクでカノンの名前を書いた。2階から持ってきたらしいそれは、どうやら37号の設計図だった様だ。


「時刻は今日の日暮れ頃だ。あと数時間はあるだろう。その間に調整を・・・」

「あの・・・」

 意気揚々と準備をしようとヨハンが37号をトルソーから外そうとする。そこに、カノンが声をかけた。

「ん?どうしたのかね、カノン君。」

「さっき、何か言いかけてませんでした?お父さんの・・・ヨハン・フレーダーマウスの事について。」

「・・・ふむ、どうやら君は耳も良いらしい。流石は魔楽隊といったところか。」

 ヨハンは37号をトルソーに着け直して、それを眺めながら、話し始めた。

「これは、僕の幼い頃の・・・昔々のお話さ。」

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Magic・A・Music! 芽吹茉衛 @MamoruMebuki888

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