5.”こうもり博士2世”

 その後も、一行は展示会の事に関して、町の人に訊き込みつづけた。

 わかったのは、その展示会の場所と、展示会を主催する人物の家の場所だけだった。

「うーん・・・流石になんだか心配になってきたんだけどな。」

 と、ネッケがこぼした。

「ここまで情報が無いと、お仕事のしようもないし・・・。」

 その横で同じ様に、カノンも言った。


「とにかく、行ってみるべきじゃないですかね?」

 と、ロベルトが言う。彼の顔も懐疑に溢れる顔だったが、カノンもネッケも、ジャンもその提案には頷くしかなかった。リストから何も情報を得ていない限り、他ならぬ自分たちの目で確認するしかない。

 そうして一行がやってきたのは、なんだか機械で沢山の奇怪な家であった。


「こ、ここが主催者さんの・・・」

「なんだか・・・ごちゃっとした家だねぇ。」

「これだけ機械だらけじゃ、展示会とか開かないと家の屋根を突き破りそうな勢いで溜まっていきますね・・・」

「というか、突き破ってんぞ、あそこ。」

 ジャンが指をさす。煙突っぽく見えていたそれは、よく見るとブリキが継ぎはぎされた何かの発煙部だったらしい。屋根の木材とタイルを突き破って、ごうごうと煙を吐き出していた。


「と、とりあえず、入ろっか。」

 カノンが小さな声で決意を固め、ドアを叩く。すると向こうからは、

『あぁ、誰だか知らないが入りたまえよ!僕ぁ今忙しくて応対できそうにないんだ!』

 と、男の人の声が聞こえてきた。

「ら、らしいけど・・・」

 と、カノンが他の3人の顔をみる。

「行くしかねーだろ。」

 と、ジャンがその顔に向かって返した。カノンも深く頷いて、継ぎはぎだらけのボロいドアを、”ギィ・・・”という音をたてながら開けた。


 中は文字通り、何かわからないものでごちゃごちゃとしていた。例の煙を吐いていたのは、どうやら何かの機械の一部だった様で、排気するのに難儀したのだろう、ブリキのパイプがまるで天井の梁と同じ様に張り巡らされたうえ、結局天井を突き破ったらしい。他にも、人の形をした機械や、犬の形をした機械、オルガンを模した様な機械まであった。

 その奥の、階段を上がった2階で、1人の男がせっせせっせと何かを書いている。


「あのー、すみませーん、魔楽隊第37番隊の・・・」

 カノンがそう声を掛けていると、男は「むっ!」と言ったのち、すぐにカノンらの方へ振り返ってまくし立てる様に話し始めた。

「君たちが僕の展示会に協力してくれる魔楽隊の子たちかい?いやぁ、そう言ってくれれば最初から応対したものを。ささ、かけたまえ、君たちにはしなければならない話が沢山あるのだよ。あぁ、椅子や机のほこりは気にしないでくれたまえよ。しばらく使ってないものでね、まるでそういう習性があるかのように集まっては積もるんだ。まるで雪みたいだろう?あぁ、それと食器のほこりも・・・」


「頭が痛くなってきたぞ、おい・・・」

 ジャンが呆れたらしくそう言った。

「と、とりあえず座ろっか・・・」

 カノンがそう言って近くにあった椅子に座った。確かにうっすらとほこりが積もっていたからか、少しだけ、お尻が滑る様な感覚がする。


 男はなおも話し続けながら階段を降りて向かってくる。

「しかし魔楽隊に仕事の依頼をして正解だったよ。なにせ我が国が誇る精鋭たちだ、たとえどんな案件だろうと応えてくれると信じていたよ。あぁそうそう、君らは展示会での演奏が仕事だと聞いていただろうが、展示会での演奏なんて必要ないよ。むしろ君たちは僕の・・・」

「おい、待て、今なんつった。」

 カノン、ネッケ、ロベルトが男の熱気に圧される中、ジャンが言った。

「ん?だから、魔楽隊に仕事の依頼を・・・」

「そこじゃねぇよ、後だよ後。」

「んん?だから、展示会の演奏が仕事だと聞いていただろうが、展示会での演奏なんて必要ないよと。」

 2度目のその言葉に一行は呆気にとられる。


「いや、あの、演奏が必要ないって・・・」

「それじゃあたしたち、呼ばれた意味ないじゃん!」

「おや、君らはアレかい?いわゆる、新人ってヤツかい?」

「それがどうしたよ。新人の演奏は気に食わねぇってか?」

 ジャンが半ば喧嘩腰に言った。ロベルトは小さな声で「まぁまぁ・・・」と抑えるが、その横ではネッケが何度もブンブンと頷いている。


「いや?そういうワケではない。し、誰もそんな事は言っていない。落ち着きたまえよ、新人くん。」

 男はシャツの上から正装らしいジャケットを着て、立派にトガったカイゼル髭を人撫でして言った。

「僕ぁ、”ヨハン・"フレーダーマウス"・2世”だ。今日はよろしく頼むよ。」

「きょ、今日ですか!?」

 カノンが驚く。「てっきり、明日とかの事だと思ってたんですけど!?」

「あぁ、言ってなかったからねぇ。急だろうが、それが僕の信条なのさ。”物事はやれる時にやれ”というね。」


「・・・フレーダーマウスか。」

 と、ジャンが小さく言った。

「知ってるの?」

 とネッケが訊く。ジャンは答えた。

「お前らも見ただろ?あの銅像を。」

「銅像・・・・・・?」

 そういえば、と皆で思い出す。町の入口の広場に建っていた銅像を。

「それがどうしたの?」

「読んでなかったのか。あの銅像の人物の名前・・・ヨハン・フレーダーマウス。」

「って事は・・・」

 カノンがそう言いながらヨハンの顔を見る。するとヨハンは笑顔で自慢げに答えた。

「あぁ、あれは父の銅像だ。この町随一の天才発明家、ヨハン・フレーダーマウス・・・通称、”こうもり博士”のね。つまり僕ぁ・・・”こうもり博士2世”と言うのが正しいだろうかね。」

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