第3話
しかし、話はこれで終わらない。
ここは医療少年院で、私は医者だった。坂井アキラは一命を取り留めた。まだ意識を取り戻してはいないが脳損傷の形跡はなく、今回の外傷が致命的な影響を及ぼすことはないだろう。
しかし、私には分からない。坂井アキラが目を覚ました時、『彼』は存在しているのかどうか。『彼』がいなくなってしまったら、坂井アキラという人格が、現実を受け止められるのかどうか。
『彼』の供述には現場検証の記録との食い違いがあって、それは別の真実を示唆している。
まず、熱湯を浴びていたのは坂井メイではなく、交際相手の方だった。それから、二人の爪には、互いの肉片が挟まっていた。後者は、死亡前に二人が格闘したことを強力に示唆している。
つまり、坂井メイは交際相手の度を超えた虐待から息子を庇おうとして交際相手から殺された可能性が高い。
『よく思い出してみろ。俺じゃない』
憎んでいた母親に庇われ、結果、彼女が殺された事実。それをどうしても受け止められず、『彼』は、自らの死を望んだのではないか。私には、そんな気がしてならないのだ。
(了)
血華煉󠄁獄 平沢ヌル@低速中 @hirasawa_null
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