第4話 貧乳とリストカット

 屋上で、この世の終わりに近い、黄昏が暗闇に落ちる瞬間であった。私は自分の生まれた運命を呪っていた。明日はプール開き。そう、貧乳を人々にさらすのだ。教会に通い始めて一週間、改善は無かった。


 私はナイフを取り出すと手首に当てる。リストカットの傷があればプールの授業に出なくて済むかもしれない。きっと、問題児としてブラックリストに載るはずだ。


 黄昏が消えて闇に世界に入った。無断欠席との選択肢はない。それは貧乳に負けたと認めるからだ。私の心はこの闇の様に黒く濁っていた。


 刹那、左手の手首から血が流れる。ふ~う、やってしまった。これで、闇の住人だ

私は目をつぶり時間だけが流れる。


 すると、屋上のドアが開き。牧師さんが屋上のスペースに入ってくる。


「ユーウはこの闇の中で何をしている?」


……。


 返事に迷っていると。結局、教会に連れて行かれて、手首の治療を受ける。牧師さんは何も言わなかった。スクール水着大好きなアホ牧師だけど、やはり、優しい。


「ここは教会だ、静かに休んで行くといい」

「ありがとう……」


 私の瞳から涙がこぼれ出たのが印象的であった。


 その後、牧師さんに治療してもらった、大きなばんそうこうを付けて、自宅に帰ると。


「あら、怪我?」

「少し、転んじゃってね」

「あ、そう」


 しかし、母親は私に興味がない様子の会話をする。母親はリモートの仕事の方が大切なのだ。


 私は自室に戻るとタンスからスクール水着を取り出す。今風のフリルの付いた物だ。


……。


 牧師さんに貰ったスクール水着を持っていく事にした。深い意味は無いがこちらの方が凛とするのだ。


 しかし、私は再びナイフを取り出すとカタカタと震えながら、ばんそこうを突き刺したくなる。ダメだ、今、これ以上ケガを大きくしたら。プールの授業には出られなくなる。


 私はナイフを投げ捨てると、ベッドにダイブする。負けない、貧乳に勝ってみせる。と、拳に願いを込めるのであった。

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