第40話 そして伝説へ



 私の名はヒマンド。

 わんぱく王国の国王だ。



 しかしそれは「お飾りの」という言葉が先に付く。そう、私は国王らしい事は何一つやっていない。



「…そんな事ないわよ」

「そうだよ。私は唯のお飾りだ」

「いいえ、あんたが表の顔をしっかりやってるから、セロちゃんが陰で暗躍出来るのよ」



 今、帝国から皇帝のオレス=ティウスが、政治上の関係で王国に来ている。


 彼はゾンビになって驚くほど優しくなった。



「私は本心で言ってるのよ」

「……本当に?」

「本当よ。人間なのに、魔王として頑張ってるヒマンドは凄いわよ」

「それは慣れと言うか、諦めというか」

「とにかく胸を張りなさい。あんたは立派な男よ!」




 思えば、以前の私は母上や兄上の影に隠れて、何不自由なく生きて来た。王国の金で贅沢三昧して、気に入らない人間は兄上とイジメて来た。



 でもセロニアスにコテンパンにされて、自分の無力さと傲慢さを思い知らされた。




「セロニアス、あいつは凄い男だよ」

「……確かにそうね」



 セロニアスは目茶苦茶で、自由奔放な男に見える。でも実際は王国の未来、いやこの大陸の未来をずっと考えていた。


 実際、あの超大国の帝国さえコントロールして見せた。今の平和はあいつが作り上げたのだ。



 これからあいつは、陰の英雄として人々に語り継がれるのだろう。




「でもセロちゃんは、セロちゃん」

「……そして私は私、だろ?」

「そういう事よ。じゃあ宣言頑張ってね」

「あぁ。私の魔王っぷりを見ててくれ、オレス」

「分かったわ」



 私は国王謁見の間から続く、王城の大きなバルコニーに出た。私の後を皇帝オレス=ティウスが続く。


 バルコニーの下は、人間と魔物の群衆で埋め尽くされていた。



「私が魔王ヒマンドである!」

「「うおぉぉぉおーっ」」

「「グガァァァアーっ」」


「我がわんぱく王国は、デストラーデ帝国と平和条約を結ぶ!」


 

 私と皇帝はガッチリと握手をした。



「「うおぉぉぉおーっ!」」

「「グガァァァアーっ!」」



「なお、私は国同士の戦争を認めない!帝国の大森林には50万を超える魔物が潜伏している。もし他国を侵攻する国があれば、その魔物達を差し向けるであろう!」



「「うおぉぉぉおーっ!」」

「「グガァァァアーっ!」」



 オレス=ティウスは、私の腕を掴みそれを高々と掲げた。


 民衆達は、私や皇帝の名を叫びながら世界平和を願っていた。









 俺の名はセロニアス。


 わんぱく王国と帝国の平和条約が結ばれた頃、俺とモーリスはセギノール共和国にいた。


 目的は、冒険者をやりながらこの国を視察する事だ。



 あ、それと仲間がもう1人いたんだっけ。



「おいセロニアス!」

「ん、何だ?」

「何で冒険者やるのに、こんな格好しないといけないんだ!」



 俺の後ろには、1人の女魔法使いがいた。魔法使いといってもまだ見習いだが。



「スカートが短過ぎるんだよ!」

「いいじゃないか、女っぽくて」

「…そ、そうか? お前がそういうなら、ま、まぁ仕方ない」



 モーリスはその女の方を見て、ニヤニヤしている。



「てめえモーリス、ジロジロ見んな!」

「おぉ、すまんすまん」

「たくっ、このエロジジイがっ!」

「それにしても、いい女になったなイメルダよ」

「うるせー、セロニアスの命令だから仕方ないだろ!」



 女戦士イメルダは、俺に弟子入りする事になった。俺やポチマルに敗れて、己の無力さを知ったのだろう。



 そして俺は考えたんだ。イメルダにとっての「イバラの道」を。

 だから剣は封印して、魔法使いとして修行するように命じたのだ。



 それとあいつは髪も短く刈り込んでいたので、伸ばすように命令した。女っぽくするのも、あいつにとって「イバラの道」だ。


 そうする事で、きっと新たな発見と成長があるはずだから。




「さて、討伐依頼の魔物を狩りましょう」

「そうだな」

「私は初級魔法しか使えないぞ」

「心配するなイメルダ。セロ様が付いていて下さる」

「おう、俺の縦笛が火を噴くぜ!」



 俺は新たな挑戦として「吟遊詩人」というジョブに挑戦している。


 吟遊詩人は後衛のジョブであり、音楽の力で仲間や敵に特殊効果をかけるのだ。



「グルアァァァーっ!」



 俺達の目の前には、強そうなオーガ3匹が現れた。



 俺は手にしていた縦笛を軽快に吹く。


──プピーっ! ピュルルル〜



 すると早速特殊効果が現れた。



「おいセロニアス!モーリスが眠っちまったぞ!」

「え、嘘?」



 見るとモーリスは土下座の姿勢で爆睡している。



「お前何やってんだ!仲間を眠らせてどうする!?」

「まぁ、これもイバラの道だから」

「ふざけんなっ、前衛無しでどう戦うんだ!」

「心配するな、吟遊詩人は無敵だ!」



 俺は大きく振りかぶり、縦笛をオーガ目掛けてぶん投げた。



──ズバンッ!!


 縦笛は勢いそのままに、オーガの心臓を突き破った。


  

「おぉ、吟遊詩人って凄え」

「お前、絶対それ間違ってるぞ!」

「よし、今度こそオーガを眠らせるぞ!」



 俺は再び縦笛を吹いた。



──プピーっ! ピュルルル〜



「……ぐがーっ」

「自分を眠らせてどうすんだ!バカ野郎!」


 

 追い込まれたイメルダとオーガ達の生死をかけた戦いが始まった。



「……はぁ……はぁ……」



 イメルダはボロボロになりながら、何とか魔法でオーガ達に勝つ事が出来た。



「大丈夫か!?しっかりしろオーガ!」



 眠りから覚めた俺は、ハイポーションでオーガ達を全回復させた。



「はあぁぁ!?てめぇぇ、何してくれてんだぁぁー!」

「うぅ、また眠くなって来た」

「ふ、ふざけんなぁぁぁあー!」

「……頑張れイメルダ」



 俺達の冒険は始まったばかりだ。






 完






=========



 作者のコマ凛太郎です。

 この物語を最後までお読み頂きまして、本当に有り難うございました。



 終盤を5話ほど書き直したので、ペースダウンしてしまいました。申し訳ありません。


 

 それにしても、主人公が殆ど戦わないという作品になり、作者自身も驚いています(笑)。

 でも読者さんが少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。



 多くの人が第一章で読むのを止めてしまう中、最終話まで読んで下さったあなた様に本当に感謝です!


 有り難うございました!



 それと、私は底辺作家ですので、すぐに見失う可能性大です(笑)。なので作者フォローして頂けると、見失わずに済むかと思います。


 充電期間を設けて、また執筆活動させてもらいますので、今後とも宜しくお願い致します。



 では、来年も宜しくお願い致します。良いお年をお迎え下さいませ。有り難うございました!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

追放されかけた第3王子の俺。でも実は邪神を封じた陰の実力者なので、クズ人間達に蹂躙教育を始めます! コマ凛太郎 @komarintaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ