終章-6 ふつうの推し
言い切って、ふいに手を伸ばした公星くんが「あった」と呟く。
わたしは彼の肩のあたりに顔を寄せて、白い指が示す先を追った。
ひしゃく型に並んだ星々の先を辿っていくと、明るい星にぶつかる。
「わたしも、見つけました」
公星くんが指を下ろす。ふたりで同じ星を見上げ続けた。
きっとわたしたちはどこにも辿り着かない。
いつまで続くのかもわからない。最後には互いすら残らないかもしれない。
だけどそれは、わたしたちにとってさしたる問題ではない。
みんなと違う道を行くと決めた。目を凝らすと、同じような決断をしたひとは、存外多くいる。最も近くでは、隣にも。
わたしはもう、以前ほど清らかじゃない。
怒りに心が泡立ったり、風に吹かれた花みたいに容易く揺らいだりする。心が揺らげば、道を見失って惑う。それでもたったひとつ本当に大切なことだけは、もう見上げる必要もないくらいわたしの中にあって、見つめ直すたびにまた歩き出せるのだと思う。
歪な軌道を描くわたしたちを見つけた誰かが、指をさして笑うだろうか。あるいは、悲しみと呼ぶだろうか。それでも。
「わたし、公星くんのこと、応援してます」
そっと口にすると、彼は少し笑って
「また、推し、ですか」
「いいえ」
推し活なんて大層な名前を付けられるものではない。そんな特別なものではないの。
ただ、飽きるまで続く日々の営みの隣に、あなたがいる。
普通のことなの。
ふいに目が合う。このひとは、わたしを許している。わたしもこのひとを許している。そうしてまた、わたし自身のことさえも。今、本当に大切なことはそれだけだ。
許されたいなんて思わない。
わたしたちはそちら側にはいない。
還る場所は、もう、見つけたから。
(了)
ふつうの推しでも許せますか 愛衣 @aoiai0130
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