終章-5 赦し
無防備に曝された肌が痛むほどに冷たく、澄んだ空気のはるか上に、果てしない星空が広がっていた。
引っ張り出した毛布にそれぞれ肩までくるまりながら、並んでトランクの淵のあたりに腰掛ける。
今、わたしたちは同じような時間に起きて、帰宅する生活を送っている。
公星くんは四月から昼の仕事を始める。それだけじゃない。いつになるかわからないけど、通信制の大学で学び直したいと打ち明けてくれた彼の表情は、とても晴れ晴れとしていた。
「普通に就職して、まっすぐ整った道に進む友人たちを見ていたら、自分がどこに立っているのかわからなくなったんです」
足場の不安定さに気づいた途端、辿るはずだった道を見失ったのだと彼は言う。
「おれはたぶん、あの場所にいた自分が許せなかったんでしょうね。まだ間に合うって、みんなに追いつかなきゃってどうしようもなく揺らいでた。それで、逃げた」
絶え間ない自己否定は、そのまま変革への祈りとなる。間違いに溺れる自身を正したくて、だけどそんなふうに自分を責めることが苦しくて仕方なくて、逃げ出した先に、結局わたしの正解はなかった。
「はい」
今日までを振り返って、ため息を吐くみたいに頷いた。公星くんは一度わたしを見て、また上空へと視線を持ち上げた。
「たぶん、これからもおれは簡単に揺らいでしまうんだと思います」
「はい」
「だけど花緒さんがくれた、いちばん大切なことは、もう見失いません」
今度はわたしが彼を見遣った。
「おれはもう、ここにいる自分を許しました。どうせ今から走ったって、みんなとは周回遅れで追いつかないって、受け入れました。そもそもみんなとは違う道を歩いているんだと思うことにしたんです。そうしたら、楽になりました。道が違えば速度も違う、当たり前のことですから」
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