懐かしい夢。そして作戦会議。

私はいつの間にか自分の家の中にいた。

いつもお母さんと一緒にご飯を食べる、いつものリビングに。

そしてなぜか…一つのドアの前に立ち尽くしているのだった。

静かに佇む、傷んで茶色に変色した木製のドア。このドアの先に何があるのかは…全く覚えていない。

でもなんとなく───開けてはならないもののような気がして、ドアノブを握れずにいた。

ぼーっとつっ立っていると…不意にドアの向こうからコンコンとノック音が聞こえて、私は驚きのあまり跳び跳ねた。


『お姉ちゃん…お姉ちゃん、いるんだよね?お願い、ここを開けて……』


聞こえてきたのは、幼い女の子の声。

小学生くらいの声だった。この声には聞き覚えがある。

私の、妹だ。


「……凛…?凛、なの?なんでそんなところにいるの?」


『ここから出られないの…おねがい、ここから出して…おねがい……』


とん、とん。

ノックの音が、拳を軽く叩きつけるようなものになってゆく。

なんだかよく分からないけど、私は今すぐ開けてあげなきゃという気持ちになって。

ドアノブを掴んで手で捻ってみたけど、鍵がかかっていて開かなかった。


『お姉ちゃん…はやく…出して…!』


「ま、待って。このドア、鍵が───」


『開けてよッッ!!!』


突如。

ドアの向こう側から、凄まじい大きさの声が鼓膜に突き刺さってきた。私は思わず耳を塞いでしまう。


『開けて!開けて!!開けてあけてあけてあけてッ!!!』


ノックの音は、どん、どんっ、ドンッ、ドンッッ!!と段階を踏んで大きくなっていく。もはや人間ではなく、大きな生物が力いっぱい殴りつけているかのような音だった。

ドアの枠がメキメキと軋みだす。しかしそれでも完全に壊れることはなく、彼女の猛攻をどうにか押し留めている。

そ恐ろしい光景を目の当たりにした私は恐怖に刈られてしまい、慌ててその場から逃げ出した。


『待ってぇッ!!ここを開けて!!!お姉ちゃん!!やだ、いかないで!!熱いよぉ!!助けてぇぇぇっっ!!!』


背中の方から、怒りと悲しみがぐちゃぐちゃに混ぜった悲鳴が響き渡るのが聞こえた。

それを聞いた私の目からは…なぜか、涙がこぼれ落ちていって。


「ごめん、ごめん…ごめんなさい……っ!」


ぽたぽたと雫を滴して謝りながら、私は必死に走った。悲鳴が聞こえなくなるところまで、あてもなく走る。


これは、何?一体なんなの??

どうして───が、また私の前で起きているの?

あれはもう、終わった事のはずなのに。


疑問を膨らませる私をよそに…彼女の声はしつこく私の脳を殴りつけてくる。


『お姉ちゃん…ずっと、一緒にいるって言ったのに…!置いてかないでよぉっ!!熱い熱い熱い熱い熱い………』


永遠にも思える悲鳴が、私の耳にこびりついて離れなかった。


***


なにか、長い夢を見ていたような気がする。

自分が魔法少女になって、悪者と戦って、でも一回やられちゃって───最後は自爆するっていう、はちゃめちゃな夢。

うん。夢に決まってる。

あんなおかしな事が、現実のわけないじゃん。

眠たい目を擦ってまぶたを開くまで、私はそんなふうに考えていた。

そして、ぱちりと目を開いた時───

丸メガネをつけた見知らぬ少女が、私を覗きこんでいて。

あれが夢ではなかった事を、なんとなく察してしまった。


「………あっ、起きた?ねぇねぇ、キミ大丈夫?私の顔見える?意識に問題は無い?身体は痛かったかりしない?」


私が目を開いたのに気づいて、少女は矢継ぎ早に質問してくる。

顔にかかるほどの長い三つ編みがぽふぽふと頬を叩いてきてくすぐったかった。


「え…あ、あの……だれですか…?」


「あっ!ごめん!起きたばっかりなのにいろいろ聞いちゃってごめんね。そうだよね、まずはゆっくりしたいよね?お茶持ってきてあげる。麦茶と緑茶どっちがいい?あ、おまんじゅうもあるよ!お茶に合うだろうから、ぜひ食べてみて───」


「おい、上原さんは起きたのか?あと勝手に俺の高級饅頭を渡そうとするな。窃盗罪で逮捕するぞ。」


野太い声が聞こえたかと思うと、部屋の奥にあった簡素なドアを開けてスーツ姿の男が入ってきた。全身が、ゴツゴツとした大木の表面ような筋肉に覆われていて…まるで筋肉ダルマの怪物だった。

筋肉ダルマはベッドに横たわる私を覗き込む。鬼のような険しい顔が間近まで迫ってきて、迫力が半端なかった。


「…お前は、上原千尋、で合っているな?」


「え……は、はい。そうですけど…あ、あなたたちは一体…?」


「あぁ、すまんな。いきなりこんなところにいて混乱しているだろう。一応自己紹介しておく。俺たちは…こういう者でな。」


彼は胸のポケットから小さな手帳を取り出した。

そしてそれを開いて、銀色のエンブレムと写真が貼ってあるページを見せてきた。


「"魔法少女対策課まほうしょうじょたいさくか"の『鬼武 豪おにたけ ごう』だ。」


「あっ!じゃあ私も自己紹介するする~。わたしはね、小山こやますいれんっていう名前なの!すいちゃんって呼んでね。あ、それと───バラッ…バラだったあなたの身体を治してあげたのは、わたしだよ!」


すいれん、と名乗った彼女は大きな目をぱちりと閉じてウインクする。そしてさらりと軽いテンションで、とんでもないことを口走った。


「…えッ!?わ、私、バラバラになってたんですか…!?」


「うん!バラバラっていうか、ほぼ肉だけの状態だったけど…"治療の魔法少女"のわたしなら、あれくらい簡単に治せるよ!」


すいれんさんは得意げにふんすと鼻息を荒くする。

ちょっと可愛いと思ってしまった。

しかし、さっき鬼武と名乗る男が発した"魔法少女対策課"という言葉も引っかかる。

私が怪訝な顔をしていると、それを察したようにすいれんさんが解説してくれた。


「あ!もしかして、魔法少女対策課って聞いて不安になっちゃった?そうだよね。魔法少女対策課といえば───町にいる魔法少女を制圧するために作られた、こわーい警察さんのグループだっていうのは、魔法少女なら誰でも知ってる常識だもんね!」


「おい、語弊のある言い方は止めろ。…まぁあながち間違えてはいないがな。」


不服そうな顔ながらも男は頷く。

どうやら私は現在、"魔法少女対策課"の一室にいるらしい。そしてその中で、ベッドの上に寝かせられている。

断片的な情報は頭の中でパズルのピースのように繋がっていって…そして、人体実験の材料にでもされるんじゃないか、という最悪な想像になって完成するのだった。


「わ、私、別にっ、悪いことしてる魔法少女じゃなくてッ…!だ、だから、その、人体実験とかはしないでください…!」


噛みまくりながらも、私は必死に弁解する。


「まぁまぁ落ち着いて!私たちはキミを痛めつけるつもりなんて全くないから!」


「へ……?」


すいれんさんが言った言葉に、私は間抜けな声を出してしまった。魔法少女対策課って、噂では魔法少女にとことん厳しくて冷酷って聞いてたけど…

確かに見た感じ、この二人から悪意のようなものは感じない。むしろすいれんと名乗った彼女からは、親切心のようなものすら感じた。


「俺たちはお前に危害を加えるつもりはない…むしろ、協力を頼みに来たんだ。」


「きょ……協力…?」


「あぁ、そうだ。今現在、我々が総力を上げて取りかかっている計画の……」


彼はそこで一息つく。そして、いっそう厳かな面持ちとなって…

驚きの言葉を、口にするのだった。


、をな。」


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