氷上の女神
@ramia294
氷上の女神
2000年代も半ばが過ぎた。
今年は、オリンピックの行われる年である。
かつて……。
2000年代に入って、しばらくしてから……。
冬季オリンピック。
誰もが最高のフィギュアスケーターと思っていた少女。
誰の目にも、その姿は、氷上の女神に映った。
しかし、その女神に、ドーピング問題が発生。
オリンピックは、氷上の女神を失格にした。
しかし、少女の国は、居直った。
これより、スポーツの世界が、その道を外れる。
あの国が居直り、無理を通すなら、この国もその国もと……。
居直った。
スポーツは、ドーピングが当然となり、記録は飛躍的に向上した。
ドーピングはスポーツに必須となり、オリンピックは製薬会社が、競う場になった。
あどけない少女の首の下。
その肉体は、ムキムキマッチョの身体となり、美しさを忘れたフィギュアスケーターは、しかし、氷の上で躍動した。
スピンは、氷に穴を穿ち。
ジャンプは十回転に達した。
あらぬ方向に身体動かしながらのステップは、速すぎ、審査員には、エッジの行方を目で追えなかった。
フィギュアスケートのジャンプの難易度と獲得点は、ジャンプ中の回転数に、支配される。
審査に、高速度対応カメラとAIが、導入された後、製薬会社の競争は益々激しくなっていった。
まず、改造技術が開発され、人口筋肉が導入された。
ジャンプは、十五回転まで増え、氷では融解が激しく、リニアエッジで、磁力体を滑る競技になった。
さらに、数年後。
製薬会社の努力は、報われた。
オリンピック競技用の人間を遂に誕生させた。
遺伝子操作で誕生させたそれらは、ドーピングの必要も肉体改造も必要としなかった。
華奢な少女にしか見えないスケーターのナナ。
彼女もそうして生まれたひとりだ。
生物学者の製作者は、五十回転半ジャンプも夢じゃないと喜んでいる。
しかし、ナナにはそれを遥かに超えるジャンプが出来ると自分で分かっていた。
しかし、心の中でブレーキをかける何かがあった。
だから……、
今夜までは、五十回転前後にジャンプをとどめていたのだ。
その夜。
十四になった夜。
一人きりで、スケート場に立った。
本当の自分の能力を知りたくなったのだ。
真夜中に軽く飛んだジャンプは、百回転を超え、少し力を入れたジャンプは、千回転を超えた。
真剣に跳べば、おそらく一万回転は超える。
しかし、それはやってはいけない。
それをすると、あの優しい生物学者のお父さんや製薬会社のお母さんと二度と会えなくなる。
何かが、ナナに呼びかけた。
その夜の映像は、しかし……。
記録されていた。
翌日呼び出されたナナ。
本当のお前の力を見せてみろ。
父よりも生物学者、母よりも製薬会社を優先する両親。
優しさを見失ったふたり。
七番目に、
初めて成功した、自分の仕事の成果に、心が支配された。
仕方なく、ナナは、ジャンプした。
光の粒子が彼女の足から溢れ出した。
高いジャンプ。
高速の回転。
空気が震える。
回転が、一万回を超えると、ナナの姿が消えた。
彼女のジャンプは、空間を切り裂き、異世界へ
の扉を開けてしまった。
異世界でも、彼女は無敵。
魔獣を、ドラゴンを、悪魔たちを、光の粒子を伴うスピンキックでなぎ倒し、異世界の人々から女神と慕われた。
ナナは、神の国からの使者に迎えられ、文字通り女神となった。
今、彼女は。
凍てつく冬の
無限の広さを持つ夜空を
自由に、ノンビリとスケートで駆け回っている。
\(๑╹◡╹๑)ノ♬ オワリダヨ
氷上の女神 @ramia294
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます