和泉市①朝の神社、広場の賑わいは

「よーしいい天気!街歩き日和!」

ミノウの案内でネットカフェにたどり着いた私は何事もなく一夜を過ごし、今に至る。

『何事もなく、ですか』

「なにさ。言いたげだね、ミノウってば」

『いえ。部屋に入れず焦っていたのはどなただったかと、ふと』

「言いたげどころか言い切ったなこの使い魔!!」

まぁ、あったのだけれど。

無事お宿について、個室の鍵を貰うまではよかった。…開け方がわからなかったのだけれど。

『すみません、鍵が開かないんですけど…でしたか』

「もーうそれはいいでしょ!済んだことなんだし!」

しかも二度もですからね、なんて言う使い魔は無視してしまおう。それくらい難しかったんだ、私には。そのまま押せば開くとは思わないでしょう?ドアノブがあるなら。

それに、荷物が部屋の中で締め出し喰らえば誰だって焦るだろうし。



「もぅ切り替えるよ!折角のお天気なんだし!」

カラカラと音を立てて笑う従者をよそに私はネットカフェの外へ。大通りを跨ぐ歩道橋を登っていく。

『左様ですね。まずは、どちらへ?』

「んー、昨日の夜いい雰囲気の神社があったでしょ?とりあえずそこかな、確か」

『泉穴師神社、でございますか』

「それそれ、って台詞取らないで」

『昨夜も足を止められていましたから。ツキネさまならそこか、と』

「そうなんだけどさぁ、あ。先導はいいよ。寄り道の発見もありそうだし」

伸ばした手をするりと躱したミノウは何も言わず、ふわりと私の真横の目の高さに。これがいつもの旅の形。決め事はあるけど、あとは気ままなものだ。


「そうだ。ミノウ、軍資金貰うよ」

『ええ。こちらに』

ミノウが軽く頷いて口、の箇所を開くと何枚かのお札と小銭が出てくる。これが今日の軍資金、10.000円。日帰り旅行の時は予算はきっちり諭吉さん1枚以内、がこの旅のたった一つの決まり事。まぁ、ただの浪費対策なんだけど。

「ん…なんか少なくない?これ」

予算は1万円のはず。けれど手元には7.000円ほど。なんでよ?と軽く睨むと当然、と言わんばかりにミノウは応える。

『宿泊費と朝食代は抜いてあります。問題ございませんか、ツキネさま』

「…おーけー…そういう事ね」

つくづくよく気の利く使い魔だことで。言われてみればそうなんだけど。


財布にお金と納得した心を飲み込ませつつ、静かな住宅街を抜けると昨夜見た小さな森と鳥居が見えた。

「昨日ぶり、泉穴師さん」

泉穴師神社。和泉国二宮だとか、なんとか。昨日暗闇の中でぼんやり浮かび上がってきた鳥居と森が神聖で、つい足を止めたんだっけか。難しいことは分からないけれど、そういう空気感のある場所だ。

賽銭を入れたら二礼二拍手一礼。振り返った先の石橋を越えたところで髪の中からミノウが姿を見せた。

『何をお願いされたのですか?』

「日々の感謝をお伝えしただけだっての。そういうもんでしょ?」

『まぁ、そうかもしれませんが。願い事はありませんので?』

「ないとは言わないけどねぇ。絵馬とか見るの好きだし」

その気になれば魔女だからさ。人間の世界に暮らすからには最低限にしたいとこだし。


「さーておつぎは…あれだね」

『池上曽根遺跡、日本最大級の弥生時代の遺跡だそうね』

「へぇ、建物あるとテンション上がるねぇ」

私たちの目の先には竪穴住居に大きな柱や高床式倉庫、がそびえている。それでもってテントがちらほら、人も結構集まっているみたい。

「ねぇ?ミノウ、なんか人多くない?車も結構止まってるぽいし」

『左様でございますね。』

「…なんかやってる、ってこと?」

『なのではないかと。見て参りますか?』

「まーさか。こんなん突撃しか無いでしょ!」

ニヤリ、と笑ってリュックを背負い直してミノウに告げる。


旅はいつだってイレギュラーで溢れてる。私は迷わず広場へ駆け出した。

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