10000円ウィッチ・ジャーニー!
海野まみず
プロローグ :今日のたびのはじまり
「お疲れ様でしたぁー」
時刻は21:00。すっかり夜の帳も降りて、ぽつりぽつりと街灯が道沿いに伸びている。
「あぁー…やっぱ長いって…朝8時始めの夜9時終わりはダメだろこれぇ…」
今日の仕事先のパチンコ屋のネオンをあとにして私はぼやく。
どうも、皆様。私は楡井ツキネ(にれい・つきね)、24歳、独身、彼氏は産まれてこの方なし。仕事は…今は警備員。…今のところは。そんな感じのしがないOLって奴、一応だけど。兵庫は尼崎で一人暮らしをしてる。一人暮らし…うん、多分。
さて、ちょっと言い回しに含みが多すぎたかもしれない。けどさ、仕方ない所もあるんだよな、これが。
なにせ私は…
「…よっし、明日は休みだ…!!」
言葉と共にポニーテールを縛っていた黒いゴムを取り払うと、真っ黒で地味な髪色がマリーゴールドみたいなオレンジに変わってウェーブがかかる。瞳も同じく淡い緑色に。…服装は仕事着に羽織った黒のウインドブレーカーだけど。
「もういいよ、ミノウ」
『本日もお疲れ様でした、ツキネさま』
「さんきゅ、やっぱその言葉は沁みるねぇ」
誰にとなく声を上げれば、1匹のミノカサゴが袖口から飛び出して、目の前で一礼するように頭を下げる。空に体を浮かせる瑪瑙細工のミノカサゴ。私の使い魔、ミノウだ。
つまり私は人間じゃない。いわゆる魔女だ。人間社会に溶け込んで暮らす、おとぎ話の魔女。もっとも特別な力は無いし、魔女だってそんなにめちゃくちゃ珍しいわけじゃないけどね。大体人里から離れているから見えないだけで。
現に私の家族をはじめとした人達は魔女の街を作って、人知から離れた暮らしをしてる。
で、私がそうしないのにももちろん理由がある。
「それで?この辺って寝泊まりできそうなとこあった?」
『はい。ですがよろしいので?少し移動されれば堺や和歌山では?』
「分かってないなぁミノウは…こういうのはきっかけが大事でしょ?泉大津に和泉、こうやって縁あって仕事しに来たわけなんだしさ」
『相変わらずですね、ツキネさま』
ミノウの鼻先に指を向けると、使い魔はやれやれ、とばかりに頷く。
「…ちょっと、馬鹿にしてる?」
『まさかまさか。ツキネさまの良さです故』
「そういうことにしとく。じゃ、今日の宿まで案内よろしくね」
御意、と答えてミノウは先導を始める。
私が魔女の街に暮らさない理由。
それは、私が旅人だから。私は旅が好き。日常を抜けて、知らない景色や人や、食べ物、文化がある。そこに生きているものがある。魔女の街に篭っていたら見えないもの達が。
だから、今日はこの街で。私はまた非日常の中に飛び込むんだ。
「よろしくね!泉大津に和泉市さん!!」
さて、明日は何に出会えるだろうか…。
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